日本では、国会議員を決める選挙が二種類あります。
これは議会が「衆議院」、「参議院」と2つあるためです。
私たちの代表を選び出す選挙には皆さん関心が深いと思いますが、選挙制度及び参議院と衆議院の相違点について知る機会は少ないと思われます。
なので今回は
- 「参議院」はどんな位置づけなのか
- 参議院議員が選ばれる選挙制度はどのようになっているか
- 「選挙区」「比例代表」といった専門用語の意味はどのようなものか
など最近の参議院選挙についてわかりやすく説明していきたいと思います。
本記事がお役に立てば幸いです。
比例代表制について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
比例代表制とは?小選挙区制との違いや議席配分の仕組みついて簡単解説
1、参議院と衆議院
議会は「立法府」とも呼ばれるように、法律を作ることが主な役割です。
法律は多くの議員に審議された後に「多数決」で成立(可決)します。
しかし、「人間は過ちを犯す可能性がある」という前提に立ち、審議と採決をもう一度行うべきだという考え方からできた制度が「二院制」です。
裁判で三審制(判決が不服な場合、控訴や上告により別の判決を求めることができる)が取り入れられている点と背景は似ており、諸外国を見るといわゆる先進国では「二院制」の国がほとんどです。
一院制の国はスウェーデン・韓国・台湾のほかにアフリカや中近東のうちの一部の国などが採用している程度で、どちらかといえば少数派です。
欧米などでは、日本の衆議院に該当する議会を「下院」(或いは庶民院や代議院)、参議院に該当する議会を「上院」(或いは貴族院や元老院)などと呼ぶことがあります。
しかしこの「上」「下」という呼び名は、上位・下位を示すからではありません。
昔アメリカで初めて議会が出来た頃に使用していた二階建ての公会堂で、人数の多かった代議院が1階部分 (lower house)、少なかった元老院が2階部分(upper house)を使用していた名残といわれています。
なお、その「元老院」の議員は選挙での選出ではなく、政府などが指名した長老によって構成されていました。
この点は1947年までの日本に存在した「貴族院」と似ています(この頃の日本は、衆議院と貴族院の二院制でした)。
二院制について更に詳しく知りたい方は以下の関連記事をご覧下さい。
二院制とは?一院制との比較や選挙制度の違いを簡単解説
2、衆議院の優先(憲法上の規定)
衆議院で可決された議案が参議院でも否決された場合でも、衆議院の議決が「国会の決定」という位置づけ(もしくは衆議院決議が優先)とされることがあります。
以下の項目をご覧ください。
- 内閣総理大臣(首相)の指名
- 予算の議決
- 条約の承認
- 法律案の議決
但し法律案については、衆議院可決後に参議院が否決した場合、衆議院で3分の2以上の多数による再可決が必要と定められています。
ちなみに内閣不信任案(今の首相には任せておけないということ)又は信任案の決議(この人を首相に選ぶということ)が認められているのは衆議院のみです。
理論上首相選出においてある政党が衆議院だけで過半数を占めていれば、参議院で他の政党に過半数を占められていても、自分の党から首相を決定することはできます(衆議院での指名が優先されるから)。
また、参議院は内閣を不信任とする議決権を持たない為、参議院で過半数を持たないことが与党の致命傷とはなりません(衆議院で過半数を占めていれば不信任案を否決でき、内閣を維持可能)。
ただし、与党(首相の政党)が参議院で過半数を持たない状態は「ねじれ」と呼ばれ、後述するように与党が不安定になることが多いです。
3、選挙制度
(1)参議院の定数|任期と改選
定数 | 248人 |
任期 | 6年 |
解散 | なし ※3年に一度、半数を入れ替える選挙が行われる |
選挙区 | 選挙区148名 比例代表100名 |
2022年12月27日時点では、定数は248です。
衆議院と違って解散はなく、任期は6年で半数ずつ改選されます。
半数の122(または123)議席ごと、3年に一度選挙が行われます。
尚、「必ず解散する」というイメージがある衆議院も、4年という決められた任期を満了すれば、改選はあり得ます。
但し、実施されたのは現行憲法の元では一度だけ(1976年(昭和51年)12月5日、三木武夫首相在任時)です。
(2)選挙の制度
① 選挙区制
「全国を一定のエリアに分け、各エリアごとに定めた数の議員を選出する」のが選挙区制の基本です。
「エリア」の広さ等によって、選挙制度は
- 大選挙区制
- 中選挙区制
- 小選挙区制
という風に呼ばれます。
参院選は、基本的に各都道府県を一つの選挙区と定める「大選挙区制」です。
都道府県ごとに有権者(選挙権のある人)数も違う為、1回の選挙での定数(選出する議員の数)は1から6と様々です。
ただ、それでも「議員一人当たりの有権者数(“一票の価値”)」を全国で等しくするのは難しいとされてきました。
1回の選挙での改選議席数における選挙区の議席が70強であるのに対し、都道府県単位(但し一部例外あり)の選挙区は45もあり、一つの選挙区に議席を複数もうけるという割り振りで、この選挙制度ではあまり大きな差をつけることができないためです。
小選挙区制とは?当選までの流れ・死票問題・メリットを簡単解説
② 比例代表制
簡単に言うと「政党ごと、得票割合に比例させて、得票数の多い順に議席を割り振る」という選挙制度で、参議院には1983年から採用されています。
この割り振り方は「ドント方式」(ヴィクトル・ドントというベルギーの数学者にちなんで名付けられた「最高平均方式」)と呼ばれ、オランダ・ベルギー・オーストリアなど二十数か国で採用されています。
割り振り方は、まず各政党の得票数を1,2,3・・・の整数で順に割り算して商(割り算の答え)を政党ごとに並べます。
そして、「商」を「議席」の数だけ、大きい方から順に抽出します。
具体的に次の表のような計算です(定数は10という前提です。)
参議院選挙の比例代表制では、投票の際に「政党の名前」ではなく「候補者の名前」を記入しても有効です。
そして一つの政党が複数の議席を獲得した場合、「候補者の名前」としての投票数の多い順に当選者が決められます。
この方法は、政党が事前に「当選する優先順位」の名簿を作らないので、「非拘束名簿式」と呼んでいます。
ちなみに衆議院選挙での比例代表は「拘束名簿式」(事前に作った名簿によって当選順位が縛られる)であり、また「名簿」に「比例代表候補者」となった候補者が、選挙区でも立候補することが可能です。
この結果、選挙区で落ちた候補者が比例代表制で当選する「復活当選」が起こることがあります。
参議院は、選挙区と比例代表の両方での立候補はできないきまりなので、衆院選とは異なり復活当選はありません。
復活当選がおこる理由は、選挙区と比例代表とのダブルで立候補することが認められている為です。この“ダブル”の制度は第一党へ非常に有利に作用する制度で、先進国の中では非常に少数派です。
比例代表制とは?小選挙区制との違いや議席配分の仕組みついて簡単解説
(3)選挙区制と比例代表制の比較
一つの選挙に、二つの投票方法(選挙制度)を取り入れているのは、それぞれにメリット・デメリットがあることから補完し合うのが目的です。
主なメリット・デメリットには次のようなものがあります。
「死票」とは、当選者以外(落選者)への票を指します。
落選者へ投票した人々の意思が当選人と異なる場合には、基本的に政治に反映されない、という前提です。
選挙区制の場合、定数が1の選挙区では、10万票獲得の候補者が当選で9万票獲得の候補者が落選ということが起こります。
そして定数1の選挙区が仮に20ある(投票者数も同じという単純計算)とした場合、200万票分の民意は20議席を獲得(獲得議席)する一方、180万票分の民意は議席に反映されません。
同じ前提でも、仮に比例代表制度であれば、180万票がすべて同じ政党へ投票されていた場合、9議席獲得する計算になります(200万票獲得した政党の議席は11になります)。
他の選挙区との公平性を保つため、各選挙区の議席は有権者の数に比例して割り振られる(定数1の選挙区と比較して、有権者数が2倍の選挙区の定数は2とする)のが選挙制度としてはあるべき姿です。
しかし、次のような問題により「各選挙区の有権者の数に比例した議席」の実現は達成していません。
- 有権者数が最少の選挙区の定数を1とする。その10倍の有権者数(仮定)がいる選挙区の定数を10とはできず、6が限度である。4議席分増やそうとすると、定数ゼロの選挙区が発生することになってしまう(選挙区の全議席数が、1回の改選では約70のため)
- 定数ゼロを避けるには、全体の議員定数を増やす必要があるが、ハードルは高い。
- また、選挙区の定数見直しには、現職議員(特に与党)同士や支持母体と利害関係が錯綜することが多い(定数削減に対して、その選挙区の現職議員は失職を恐れて猛反対する)。
対策として、各都道府県ごとに1つだった47の選挙区のうち、有権者数の少ない都道府県を複数組み合わせて1つの選挙区とする「合区」案が検討されました。
最も人口が少ない県から数えて4番目までの県が、島根・鳥取・高知・徳島で、隣接する県同士での組合せが可能だったことから、2016年の参議院選挙より、「島根・鳥取で1つの選挙区、(1回の改選で)定数1」(高知・徳島も同様)という選挙区が設けられています。
4、近年の参議院選挙のトピックス
(1)「ねじれ」と「過半数割れ」の継続
「ねじれ」とは、「衆議院での与党(第一党)が、参議院では第一党になれない(最大議席を獲得していない)状態」を指すことばで、1989年7月の参院選挙直後に朝日新聞が掲載したのが始まりです。
この選挙では、いわゆる「55年体制」以後で初めて「ねじれ国会」となりました。
衆議院のみならず参議院でも長く第一党であった自民党が、初めて参議院で「過半数割れ」をおこしました。
この「過半数割れ」は、4年後の1993年に「非自民党(細川)内閣」の成立(自民党が結党以来はじめて下野)へ大きく影響しました。
その「非自民党内閣」が倒れたあとの1995年でも、自民党は社会党(当時)・新党さきがけ(同)と連立することによって辛うじて政権に復活できたのでした。
参議院では依然として自民党の過半数割れが続いていたからです。
参議院で自民党が過半数を獲得できない状態は更に続き、1999年から現在まで20年もの間、自民党は公明党と連立を組むことによって権力を維持しようとしてきています。
国会運営において衆議院の優越が認められているとはいっても、参議院の勢力は決して小さくはないことの証拠といえます。
そして2009年の参議院選挙では、連立を組んだ自民党・公明党の議席と合わせても、「第一党」の座は民主党(当時)に奪われ、同年の「政権交代」につながりました。
このように、衆議院与党(内閣総理大臣の政党)が参議院で主導権を握れない状態は、政権交代を含めた「政局の流動化」を招くことが知られています。
この点につき、政治の不安定さを指摘するか、或いは膠着化しない政治を評価するかは、個人の意見の分かれるところです。
なお、1989年7月からの、自民党が参議院で単独過半数を取れない状態は、2016年の参議院選挙終了後まで27年間も続いていました。
(2)2019年7月の参議院選挙
2013年の参院選での「公明党との連立で過半数回復」による「ねじれ」解消、そして2016年の選挙後に参議院単独過半数を回復した安倍政権にとって、2019年の参議院選は「完勝」とは呼べないものでした。
自民党は公明党の議席と合算すれば過半数を維持しているものの、単独では9議席減らして113議席となったため、半数に9議席足りておりません。
一方の野党は、2017年の旧民進党(旧民主党系)分裂の影響が残り、立憲民主党が8議席増やしたものの国民民主党は2議席減らすなど、政権与党の批判の受け皿にはなりきれなかったようです。
ただし、与党が伸びきれなかったのは48.8%という「投票率の低さ」によるところが大きく、この低投票率は、統計が取れる全国規模の国会議員選挙(衆議院も含む)のなかで2番目の低さです。
上気した比例代表制のメリットとして述べた「中小規模の政党が、ある程度議席を確保できる」を実現したのが、「れいわ新選組」という政党名の政党でした。
政党の大きさ(知名度)に比例した議席を確保できることから、他の候補者を圧倒せねば勝てない選挙区制よりも、得票が議席に結びつきやすい制度の為です。
ちなみに、他の小規模政党の議席もほとんど比例区で獲得されています。
れいわの得票は228万票で「得票率」は4.5%に達し、政党として扱われるための条件である2%をクリアしました。
比例区だけをみれば、れいわの得票数は社会民主党(104万票)の2倍以上に達し、国民民主党の348万票に次いでいます。
この結果も踏まえ、結集を視野に入れた野党の動きが活性化されつつあります。
政策に関する一致は簡単ではないものの、れいわの山本氏は次期衆議院選に向け、野党共闘を目指し選挙運動を行う考えを公表しています。
共産党は、野党連合政権の樹立に向けた「政権構想」でれいわと連携をとり、他の野党へも呼び掛けています。
立憲民主党と国民民主党などは、衆参両院での「統一会派」を立ち上げました。
過去何回かの、「参議院選挙からはじまった動きにより、政治になにかが起こった」という流れを考えると、今後の動きから目を離せませんね。
参院選の選挙制度に関するQ&A
Q1.参院選の選挙制度は?
参院選の選挙制度は以下の2つです。
- 選挙区制
- 比例代表制
Q2.選挙区制の種類は何がある?
選挙区制には以下の3つがあります。
- 大選挙区制
- 中選挙区制
- 小選挙区制
参院選は、基本的に各都道府県を一つの選挙区と定める「大選挙区制」です。
Q3.参議院の定数は?
2022年12月現在で248人です。
まとめ
参議院とその選挙制度についてまとめますと
- 国会には二つの議院がある。
- 一度議決した議案を再度審議することにより、慎重な運営を目指す仕組みである
- 参議院の任期は6年、定数の半数ごとに改選するため、選挙は3年に一度行われる
- 選挙制度は選挙区制と比例代表制で、それぞれのデメリットをカバーしあっている
- 1989年から2016年までの間、参議院で単独過半数を制した政党はなかった
- 2019年7月の選挙では自民党は再び単独過半数を割ったが、有力野党は伸び悩んだ
- その間隙を縫うように躍進した「れいわ新選組」に刺激され、野党共闘が進みつつある
ということがいます。
そして我々、有権者にとって大事なことは参政権を大切に使い、棄権しないことです。
日本と日本人の未来の為にも、かならず投票に行き、しっかりと政治家を選びましょう。
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