児童虐待とは、身体的虐待や性的虐待、ネグレクト(保護の怠慢)や心理的虐待など、子どもが直面する様々な問題を含む深刻な社会問題です。
2021年度の児童虐待相談対応件数は、20万7659件になると言われています。
悲惨な虐待を防ぐにはどのような対策が必要なのでしょうか。
本記事では以下についてわかりやすく解説します。
- 児童虐待とは
- 児童虐待の4つの種類
- 児童虐待防止対策
本記事がお役に立てば幸いです。
1、児童虐待とは
児童虐待とは、子どもに物理的暴力や精神的苦痛を与える行為です。
児童虐待の加害者は親に限らず、
- 同居人
- 教師
- 施設職員
などが加害者になるケースもあります。
児童虐待には、主に4つの種類があります。
- 身体的虐待
- 性的虐待
- ネグレクト
- 心理的虐待
それぞれ確認していきましょう。
(1)身体的虐待
身体的虐待とは、子どもの体に暴力を振るう虐待です。
- 殴る
- 蹴る
- 叩く
- 首を絞める
などのほか
- やけどを負わせる
- 溺れさせる
- 拘束する
などの行為も身体的虐待に含まれます。
(2)性的虐待
性的虐待とは、子どもに対し性的行為を強要する虐待です。
- 性的行為を見せる
- 性器を触る
- 性器を触らせる
- ポルノグラフィ(性的描写)の被写体にする
などが性的虐待に含まれます。
(3)ネグレクト
ネグレクトとは、子どもの育児を放棄する虐待です。
英語の“neglect”(無視、軽視、放置)が語源です。
- 食事を与えない
- 不潔な状態のままにする
- 車に放置する
- 病院に連れて行かない
などがネグレクトに含まれます。
(4)心理的虐待
心理的虐待とは、子どもに精神的苦痛を与える虐待です。
- 暴言を吐く
- 拒絶する
- 無視する
- 目の前で兄弟や配偶者に暴力を振るう
- 兄弟で差別する
などが心理的虐待に含まれます。
参考:児童虐待の定義 八王子市
2、児童虐待相談の対応件数や死亡事例は増加傾向にある
児童虐待相談の対応件数や死亡事例は増加傾向にあります。
- 児童虐待相談対応件数の推移
- 死亡事例件数の推移
について、それぞれ確認していきましょう。
(1)児童虐待相談対応件数の推移
2019年度の児童相談所の児童虐待対応件数は、19万3780件にのぼり、過去最多を記録しました(厚生労働省調べ)。
虐待内容の内訳は、以下の通りで心理的虐待が最も多くなっています。
- 心理的虐待 10万9118件(56.3%)
- 身体的虐待 4万9240件(25.4%)
- ネグレクト 3万3345件(17.2%)
- 性的虐待 2077件(1.1%)
(2)死亡事例件数の推移
厚生労働省が発表した第15次報告によると、2017年4月から2018年3月までに虐待によって死亡した子どもは、52名でした(+心中による虐待死は13名)。
厚生労働省による、虐待死の第1次報告から第11次報告の推移によれば、児童虐待相談対応件数と虐待死の件数が高い水準で推移しています。
参考:児童虐待相談の対応件数及び虐待による死亡事例件数の推移 厚生労働省
また、虐待死で亡くなった子どもの年齢は0歳が最も多く、全体の53.8%を占めています。
参考:子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第15次報告)、平成30年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数及び「通告受理後48時間以内の安全確認ルール」の実施状況の緊急点検の結果 厚生労働省
参考:令和元年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値> 厚生労働省
3、しつけと虐待の違い
しつけと虐待の違いはその目的にあります。
しつけは子どものため、虐待は大人のためのものです。
- しつけと虐待の違い
- うまくしつける2つのコツ
について解説します。
(1)しつけと虐待の違い
しつけとは、子どもの人格や才能を伸ばすことで、社会性を育む行為です。
虐待とは、大人が自分の利己的な感情や考えによって、無理やり子どもを支配する行為を指します。
しつけと虐待の違いに悩んだら、以下の2つのポイントを押さえておきましょう。
- 子どもの体や心に苦痛を与えていないか
- 本人が理解できる方法で伝えているか
言うことを聞かないので顔を叩いた、罰としてご飯を与えないなどは体罰に当たります。
また、無視をする・兄弟と比較して貶すなどの行為も心理的虐待です。
(2)うまくしつける2つのコツ
厚生労働省では子どもと向き合うコツを紹介しています。
その中から2つのコツをご紹介します。
①CCQを意識する
子どもに話しかける時は
- Calm(穏やかに)
- Close(近づいて)
- Quiet(落ち着いた声で)
を心がけると、言いたいことが伝わりやすくなります。
『走らないで』と怒鳴るのではなく、『歩こうね(歩きましょう)』と肯定的に話すことも大切です。
また、片付けの際は「一緒に片付けよう」と声をかけるなど、『一緒にやる』ことも効果的な方法になります。
子どもの自己肯定感を育むために褒めることも忘れずにしましょう。
②クールダウンの方法を決めておく
時間や心に余裕がないときは、子どもにイライラをぶつけやすくなります。
- 深呼吸をする
- 窓を開けて風にあたる
- ストレスが発散できるものを探す
などクールダウンできる方法を見つけておきましょう。
育児の悩みを相談する、一時預かりや家事代行サービスを利用するのも1つの方法です。
しつけをする時は、子どもが理解できる方法で、自発的に動けるように、落ち着いて促してみましょう。
参考:どこまでが『しつけ』で、どこからが『虐待』?? 奈良県
4、児童虐待防止対策
厚生労働省では児童虐待を防止するために
- 児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」
- 虐待を防ぐ法律
- オレンジリボン運動
などさまざまな対策を行っています。
(1)児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」
児童相談所虐待対応ダイヤルとは、虐待を通報できる電話番号です。
虐待が疑われる子ども、または状況を発見した場合には『189』に電話をかけることで、最寄りの児童相談所につながります(通話料無料)。
匿名での通報も可能です。
連絡者や連絡内容についての秘密が守られています。
(2)虐待を防ぐ法律
虐待は法律により禁止されています。
- 児童福祉法
- 児童虐待の防止等に関する法律
についてご紹介します。
① 児童福祉法
児童福祉法とは、児童の健全な成長と生活の保障、愛護を定めた法律です。
戦後の戦争孤児等を保護する目的で1947年に公布、1948年に施行されました。
児童福祉法では、18歳未満を『児童』とし、児童虐待に関連する法律も含まれています。
児童福祉法で児童虐待について定めている条文の一部をご紹介します。
・第1条(児童福祉の理念)
すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。
・第25条(要保護児童発見者の通告義務)
要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
・第33条(児童の一時保護)
児童相談所長は、必要があると認めるときは、第26条第1項の措置をとるに至るまで、児童に一時保護を加え、又は適当な者に委託して、一時保護を加えさせることができる。
条文引用:虐待関連法規 文部科学省
② 児童虐待の防止等に関する法律
児童虐待の防止等に関する法律は、18歳未満の児童への虐待を禁じる法律です。
児童虐待防止法とも呼ばれます。
児童虐待が社会問題になったことで、2000年に施行されました。
児童虐待の防止等に関する法律では、虐待を4つの種類(身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待)に分け、それぞれの行為を禁止しています。
児童虐待の定義
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。第十六条において同じ。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
条文引用:児童虐待の防止等に関する法律 e-GOV
2019年には『体罰の禁止』が明記された改正法が成立し、2020年から施行されました。
第十四条 児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、体罰を加えることその他民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲を超える行為により当該児童を懲戒してはならず、当該児童の親権の適切な行使に配慮しなければならない。
条文引用:児童虐待の防止等に関する法律 e-GOV
参考:児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律の公布について(通知) 文部科学省
(3)オレンジリボン運動
オレンジリボン運動とは、「オレンジリボン」を児童虐待防止のシンボルマークとした、「子ども虐待防止」の啓発を行う取り組みです。
2004年に栃木県で発生した虐待死の事件を受け、オレンジリボン運動は始まりました。
2006年から認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワークが、オレンジリボン運動の総合窓口を担っています。
「里親家庭で育った子どもたちの明るい未来」を示すため、明るさと暖かさを感じさせるオレンジ色が採用されたと言われています
参考:オレンジリボンマークについて オレンジリボン運動 認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク
5、児童虐待を早期発見するための3ポイント
児童虐待を早期発見するためにはどうすればよいでしょうか?
政府が発表している、児童虐待を早期発見するための3つの異変・違和感についてご紹介します。
(1)子どもについての異変・違和感
虐待を受けている子どもは、以下のような特徴があります。
- 家に帰りたがらない
- 衣服が汚れている
- 触られることをひどく嫌がる
- 異常な食行動がある
- 乱暴な言葉遣い
- 性的に逸脱した言動
- 表情が乏しく無口
(2)保護者についての異変・違和感
児童虐待をしている保護者には、以下のような特徴があります。
- 人前で子どもを厳しく叱る
- 人前で子どもを叩く
- 感情と態度が変化しやすい
- イライラして余裕がない
- 子どもとの距離感が不自然
- 家の様子が見えない
などの特徴があるとされています。
(3)状況についての異変・違和感
状況についての異変や違和感には、以下のような特徴があります。
- 子どもの体に不自然な怪我がある
- 説明できない怪我がある(頻繁に確認できる)
- 親がいないと表情が晴れやかになる
- 親がいるときは親をうかがい、表情が乏しい
- 家庭に対する近隣からの苦情や悪い噂が多い
虐待による怪我は外から見えにくい
- 臀部(でんぶ)
- ふとももの内側
- 首
- わきの下
などの場所に多いとされています。
まとめ
今回は児童虐待について解説しました。
増加する虐待を防止するためには社会全体で子どもを守る必要があります。
虐待をしてしまう保護者が抱える問題の解決も急がれています。
近所や学校などで違和感を覚えるような場合は、児童相談所や警察への連絡を検討してみましょう。