日本版DBS(Disclosure and Barring Service)とは、性犯罪の犯罪歴を持つ者が子どもに関わる職業に就くことを防ぐための制度です。こども家庭庁の発足を機に、子どもたちの人権と福祉を守るための具体的な施策が進んでいます。
日本では未成年者への性加害対策が他の先進国に比べ後れを取っていることが指摘されてきました。
教育現場でのセクハラやわいせつ事件が絶えない中、こども家庭庁は2023年秋にイギリスのDBSを参考にした「日本版DBS」の法案提出に踏み切りました。
本記事では、子どもたちを性犯罪から守るこの新制度について、以下の項目に沿ってわかりやすく解説します。
- 日本版DBSとは
- 日本版DBSの犯罪歴の照会について
- 日本版DBSの課題
- 海外のDBS
- 国民からの声など
1.日本版DBSとは?
日本版DBS(Disclosure and Barring Service)は、性犯罪の犯罪歴を持つ者が子どもに関わる職業に就くことを防ぐための制度です。
この制度は、子どもたちが活動する様々な場所で働く大人たちに対し、性犯罪歴などの特定の犯罪歴の証明を義務付けることを核としています。
▼大人が関わる子どもたちが活動する場所
- 学校
- 保育施設
- 部活動
- 学習塾
- スポーツクラブなど
日本版DBSの導入は、子どもたちを潜在的な危険から保護し、教育・保育現場や子どもが活動する各場所をより安全な空間に変えるための重要な一歩となるでしょう。
(1)日本版DBSの対象範囲
日本版DBSの対象範囲は、子どもたちの安全を確保するために極めて重要な要素です。
日本版DBSの対象範囲となる施設に認定されるには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 支配性
- 継続性
- 閉鎖性
現段階では、日本版DBSの利用が「義務化」されている施設と、研修や相談体制の整備など一定の条件をクリアした場合に利用する「認定制度」のある施設が存在します。
▼「義務化」されている施設と「認定制度」が必要となる施設
義務化 | 認定制度 |
|
|
この制度を導入することで、子どもたちが頻繁に利用する様々な場所で働くすベての職員が健全である状態にすることを目指しています。
具体的には、下記職員が日本版DBSのチェック対象となります。
- 教師
- コーチ
- ベビーシッター
- 学習塾の講師
- その他子どもと直接関わる機会のある職業など
2.日本版DBSの導入に至った背景
日本版DBS(Disclosure and Barring Service)の導入背景は、日本における子どもに対する性犯罪への対策強化とその予防策を確立させるためです。
近年、子どもを対象とした性犯罪が社会的な問題となり、これに対する効果的な対応の必要性が高まっています。
教育や児童福祉の現場において、子どもたちの安全を脅かす事案が発生し続ける中、国内外からの法整備の遅れに対する批判も相次いでいました。
実際に性犯罪の被害は減少傾向にあるものの、著しく状況が改善されているわけではありません。
引用:警視庁「令和4年における少年非行及び 子供の性被害の状況」
加えて、下記のように「小児わいせつ型」「痴漢型」の「性犯罪再犯(刑法犯)」の割合は高い状態です。また、「痴漢型」「盗撮型」の「性犯罪再犯(条例違反)あり」は約3割となっています。
引用:法務省「平成27年版 犯罪白書~性犯罪者の実態と再犯防止~」
上記画像からも日本では子どもへの性犯罪が多く、再犯率も高いことがわかります。このような背景から日本版DBSが導入されることになりました。
3.日本版DBSの犯罪歴の照会について
日本版DBS(Disclosure and Barring Service)の核心となる犯罪歴の照会システムは、子どもたちの安全を守る上で非常に重要な役割を果たします。
ここからは、犯罪歴の照会について、下記項目に沿って解説します。
- 照会方法
- 照会対象となる犯罪歴
- 照会できる性犯罪の期間
(1)照会方法
性犯罪歴の照会は以下の流れで行われます。
犯罪履歴がない場合 | 犯罪履歴がある場合 |
①事業者がこども家庭庁に申請
②子ども家庭庁が法務相に照会 ③子ども家庭庁が「犯罪事実確認書」を作成・交付 |
①事業者がこども家庭庁に申請
②子ども家庭庁が法務相に照会 ③本人に事前通知送付(2週間以内であれば訂正請求が可能) ④就業希望者が内定を辞退する場合、犯罪履歴が通知はされずに申請を却下 |
※事業者は犯歴を一定期間後に廃棄する義務がある
参考資料:NHK「”子どもを守る”「日本版DBS」法案決定」
(2)照会対象となる犯罪歴
「日本版DBS」における照会対象となる犯罪歴には、子どもたちの安全に直接影響を及ぼす可能性のある犯罪が含まれます。
前提として、性犯罪前科がある者は確認の対象となります。強制わいせつのような刑法犯だけでなく、痴漢や盗撮などの条例違反も対象となります。
一方で、不起訴・示談・懲戒処分については照会対象となりません。
このように照会対象となる犯罪歴の定義を明確にすることで、制度の透明性や効果性を保障し、子どもたちの安全な環境作りに貢献してくれるでしょう。
(3)照会できる性犯罪の期間
日本版DBSの犯罪歴は、刑の重みによって照会期間が異なります。
実際の照会期間は、以下の通りです。
禁錮刑以上の場合 | 罰金刑以下の場合 | 執行猶予の場合 |
拘禁刑の執行終了から20年 | 罰金刑の執行終了から10年 | 執行猶予の裁判確定日から10年 |
この規定に則り、日本版DBSの性犯罪歴照会では、最長でも刑の執行終了後20年を照会期間の上限として設定しています。
この期間設定は、適切な再犯防止策と個人の更生を促すためのバランスを考慮して決定されており、子どもたちの安全保護と犯罪者の社会復帰の両立を目指しています。
4.日本版DBSの課題
日本版DBSでは、下記の2点が課題とされています。
- 職業選択の自由に抵触する可能性がある
- 個人情報保護法に抵触する可能性がある
どちらも就業者に対する課題となっていますが、具体的にどのような課題があるのかを解説します。
(1)職業選択の自由に抵触する可能性がある
厚生労働省は、職業選択の自由として下記内容を記載しています。
○ 日本国憲法(昭和21年憲法)第22条第1項においては、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と規定されており、これは、職業選択の自由を保障しているものである。
○ この「職業選択の自由」は、自己の従事する職業を決定する自由を意味しており、これには、自己の選択した職業を遂行する自由、すなわち「営業の自由」も含まれるものと考えられている。 |
日本版DBSの導入は、児童に対する性犯罪を防止する重要な目的を持っていますが、これが職業選択の自由という基本的人権に抵触する可能性があります。
具体的には、性犯罪歴がある個人が特定の職業に就くことが制限されることで、その人の再社会化や更生の機会が制約される恐れがあります。う内容に
このことが社会的な排除や差別につながりかねず、個人の尊厳を傷つけたり新たな人生をスタートさせる上で影響を及ぼしたりする可能性があります。
この問題に対処するためには、性犯罪歴を持つ個人に対しても、適切な支援やリハビリテーションプログラムを通じて職業選択の自由を保障する仕組みを検討する必要があると言えるでしょう。
(2)個人情報保護法に抵触する可能性がある
日本版DBSにおける性犯罪歴の照会は、効果的な児童保護を目指す重要な取り組みである一方で、個人情報保護の観点での課題も垣間見えます。
犯罪歴は非常にデリケートな情報です。その取り扱いを行う「日本版DBS」は個人情報保護法に抵触する可能性があるという懸念が生じます。
この課題に対応するためには、性犯罪歴の取り扱いに関して厳格なプライバシー保護基準を設け、個人情報のセキュリティを確保することが不可欠です。
5.海外のDBS
世界の国々では、それぞれが児童保護のための独自の照会システムを運用してきました。
ここでは、以下の国のDBSについて解説します。
- イギリス
- ドイツ
- フランス
(1)イギリス
イギリスの犯罪歴照会システムは、職種を問わず使用者が被用者の犯歴を確認できる仕組みです。犯罪歴データは内務省を含む他の組織によって管理されています。
子どもに関わる職業や活動に従事する者に対しては、性的虐待等の犯罪歴がある人物を雇用すること自体が法律で犯罪行為とされており、これらの職種における犯歴照会は義務付けられているのです。
DBSは「子どもや脆弱な大人と接する仕事に就けない者のリスト作成」という形で就業禁止決定の機能も担っています。
イギリスの厳格な犯罪歴照会システムは、子どもや脆弱な人々の保護において非常に高い効果を発揮してると言えるでしょう。
(2)ドイツ
ドイツでは、子どもの福祉に関わる職種における雇用や配置に際して、拡張無犯罪証明書の提出が求められています。
この措置は、公的な青少年福祉団体や独立した青少年福祉団体において厳格に適用されており、性犯罪を含む特定の犯罪に対する有罪判決を受けた者の子どもの福祉関連職種への雇用や配置を禁止しています。
ただし、公的支援を受けていない団体が子どもと接する活動を行う場合、この証明書の利用は任意です。
さらに、学校での教師やアシスタント、教育実習生の雇用においても、同様の無犯罪証明書の確認が義務付けられています。
このように、ドイツは教育機関を含む子どもの福祉に関わる全ての領域で、児童の安全を守るための厳格な基準を設けているのです。
(3)フランス
フランスでは、子どもに関わる職種への雇用時や、既にそのような職種に従事している従業員への犯罪歴照会が法律により義務付けられています。
フランスの法律では、犯罪歴を理由にした直接的な不採用や解雇は許されていません。
そのため、採用や継続雇用の判断は、犯罪歴とその人が応募または従事している職種との間に不適合性があると判断される場合にのみ、行うことが可能です。
このように、フランスでは犯罪歴がある人々に対しても公正な扱いを保証しつつ、子どもたちの安全を確保するためのバランスを取っているのです。
参考:こども家庭庁「イギリス・ドイツ・フランスにおける犯罪歴照会制度に関する資料」
6.国民からの声
「日本版DBS」の導入に向けた検討が進む中、保護者や教育関係者からは、子どもと接する全ての職業に対して性犯罪歴の確認を義務化する強い要望が寄せられています。
実際に8万筆超の署名がこども家庭庁に提出されており、国民の強い関心と期待を示しています。
しかし、政府が検討している案では、保育園や学校といった施設は対象に含まれるものの、塾やスポーツクラブなどは自主的な確認に留まり、「適合マーク」を与える制度になる予定です。
このような対応では、性犯罪歴の確認を行わない事業者が存在することになり、子どもたちへのリスクが依然として残ることが予想できます。
国民からは、より幅広い対象範囲を求める声が強く、日本版DBSが本当の意味で子どもたちの安全を守る制度となるためには、この点が重要な課題として挙げられています。
参考:PR TIMES「8万筆超の署名をこども家庭庁・小倉こども政策担当大臣へ提出!「日本版DBS」の対象を子どもと関わるすべての仕事へ!」
PoliPoliで公開されている教育関連の取り組み
誰でも政策に意見を届けることができる、政治プラットフォームサービス「PoliPoli」では、教育政策について、以下のように公開されています。
あなたの願いや意見が政策に反映されるかもしれないので、ぜひ下記のリンクからコメントしてみてください。
(1)子ども家庭庁創設で未来に集中投資政策の政策提案者
議員名 | 長島 昭久 |
政党 | 衆議院議員・自由民主党 |
プロフィール | https://polipoli-web.com/politicians/g1tcmvrEFgkUtrm3rZqY/policies |
(2)子ども家庭庁創設で未来に集中投資政策政策の政策目標
政策目標は主に以下の通りです。
- 「子ども家庭庁」を設置し「子どもに関する事はここに行けば解決する」という、シンプルでわかりやすい行政窓口を全国の自治体につくります。
(3)実現への取り組み
実現への取り組みは以下の通りです。
- 子ども家庭庁創設とともに、国のすべての子ども関連施策を再構築することを規定する「子ども基本法」(仮称)の制定を目指します。
この政策の詳細をより知りたい方や、政策の進捗を確認したい方は下記リンクからご確認ください。
7.まとめ
日本版DBSは、子どもたちを性犯罪から守るための有効な手段として期待されています。しかし、子供の立場的にも就業者の立場的にも課題が残っている状態です。
海外の事例を参考にしつつ、日本独自の環境に適した形での制度運用が求められるでしょう。
子どもたちの安全と未来のために、この制度が社会全体で支えられ、適切に運用されることが望まれます。