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本人認証がなされれば撃ち放題? 米大統領と「核のボタン」

投稿日2021.3.1
最終更新日2021.03.01

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2021年1月20日、第46代アメリカ合衆国大統領のジョー・バイデン氏が就任式を行いました。
通常、前任の大統領が出席し、新たな大統領の門出を祝うもの……なのですが、そこはドナルド・トランプ氏。就任式前にワシントンを離れフロリダへと旅立ってしまいました。
では、通常は就任式で引き継ぎが行われる「核のボタン」はどのように処理されたのでしょうか?

決して「ボタン」が入っているわけではない超重要なカバン

「核のボタン」と呼ばれることも多いそのカバンは、通称「核のフットボール(Nuclear football)」または「核のブリーフケース(Nuclear briefcase)」と名付けられています。
黒い革に覆われた総重量約20キロのアタッシェケースには、アメリカ大統領が司令部を離れていても核攻撃の許可を出せる道具が4つ入っているとされています。

  1. 報復措置を記した黒い手帳
  2. 「極秘の場所」を一覧化した本
  3. 緊急警報システムの手続きをまとめたマニラフォルダー
  4. 認証コードが書かれたカード(ビスケット)

実際に核爆弾を発射または爆発させる「ボタン」が入っているわけではありません。
大統領のそばには常に軍人が同行し、このカバンを持ち運んでいます。
カバンを持った側近は、いかなるときでも大統領の隣にいることが求められます。

大統領が核兵器の使用を決断したら……?

では、アメリカ大統領が「核兵器を使用する」と決断したとき、このカバンはどのように扱われるのか。
まずは「核のフットボール」を持ち運ぶ側近が大統領のそばに呼ばれます。
カバンには小型のアンテナが仕込まれており、カバンが開けられるとアメリカ軍の最高機関である統合参謀本部(JCS)に信号が送られます。
大統領は国防長官らとどのような攻撃を行うのか、その選択肢を検討します。
巡航ミサイルを1発撃つだけなのか、それとも大陸間弾道ミサイル(ICBM)を乱射するのかなど、具体的な計画を決定します。

次に核戦争の指揮・統制に関わっている国家軍事指揮センターなど、各司令官と連絡を取ります。
アメリカ大統領は軍の最高司令官でもあり、核攻撃を命令できるのは大統領だけです。
命令が軍によって実行されるためには、「この命令を下している人物がアメリカ大統領本人である」ことを証明する必要があります。

その証明に使われるのが、「ビスケット」と呼ばれるプラスチック製のカードです。
このカードは大統領本人が常に持ち運ぶことが求められており、本人を認証する特別なコードが記されています。
このコードが正当なものかは国防長官がチェックするのですが、長官が行えるのは「本人か、本人ではないか」の判断だけ。
大統領が下した「核兵器を使用する」という命令を拒否することはできず、必ず実行しなければなりません。つまり、大統領は核兵器を使用することを決断できる、ほぼ唯一の存在ということになります。
どうしても長官本人の意志で発射を阻止したいのであれば、謀反を起こすという手段しか残されていないということでしょう。

ここで疑問が生じます。
アメリカ大統領が核兵器の使用を命じた。その命令者は大統領本人であることが確認できた。しかし、大統領本人が正気を失っていたら?
この疑問を公に口にした軍人がいたと伝わっています。
1973年、ハロルド・ヘリング少佐が、「自分に対して出されたミサイル発射命令が、まともな大統領からのものであることをどうやって知ることができるのですか?」という疑問を投げかけたことがあります。
その問いに対する答えは用意されておらず、ヘリング少佐は空軍を除隊されました。

臨時の方法で対処されたトランプからバイデンへの引き継ぎ

この「核のフットボール」は3つ存在し、2つは大統領と副大統領に割り当てられ、大統領の身に何らかの事態が起こった場合には副大統領が対応できるようになっています。最後のひとつはホワイトハウスに保管されています。
大統領の交代に際して、就任式の直前にホワイトハウスで退任する大統領と会談したときに、「ビスケット」を受け取るのが通例です。
受け取った「ビスケット」は、就任式の正午に新たな大統領が宣誓を行った直後に電子的に作動するようにプログラムされています。

2021年1月20日に行われたジョー・バイデン氏の就任式に、ドナルド・トランプ氏は参加しなかったためにトランプ氏が持っていた「ブリーフケース」を引き継ぐことができませんでした。
そのため、大統領に就任するバイデン氏用に新たに「核のブリーフケース」が用意され、20日正午の宣誓に合わせて、トランプ氏のブリーフケースを無効化すると同時にバイデン氏のものを有効化することで対応したとのことです。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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