宇宙政策とは、一般的に宇宙の開発・利用を進めるための取り組みです。
宇宙空間は、今や聖域扱いされる空間ではなく、世界各国による新たな覇権を争う競争の場と化している、という意見もあります。
そこで今回の記事では、以下についてわかりやすく解説します。
- 宇宙政策とは
- 日本の主な宇宙政策
- 世界各国の宇宙政策について(アメリカ・EU・中国・ロシア)
本記事がお役に立てば幸いです。
1、宇宙政策とは
宇宙政策とは、宇宙基本法に基づいて作成される、宇宙開発・利用に関する政策のことです。
従来の政策は、研究目的をメインとした「衛星・ロケットの開発」が主な取り組みでした。
しかし、
- 宇宙開発・利用へ参入する国の増加
- 宇宙ビジネスの拡大
などを受け、日本でも「宇宙は国家の安全・経済・科学を担う戦略的分野である」という方針が立てられました。
今日では、「課題を解決する手段としての宇宙利用」という視点から、
- アジアを中心とした宇宙外交
- 戦略的産業の育成
- 安全保障への貢献
- 環境保全への貢献
などについても、宇宙政策の範囲と考えられるようになっています。
2、日本の主な宇宙政策
ビジネスだけでなく、安全保障においても、宇宙空間は極めて重要な場所である、と考えられています。
宇宙政策では、20~30年先の社会を見据え、具体的な計画を立てていくべき分野である、と言われているのです。
政府が掲げる「課題の解決手段」のための宇宙政策とは、具体的にどのような政策なのでしょうか。
日本の主要政策である
- 宇宙基本法
- 宇宙基本計画
- 準天頂衛星システム
について、それぞれみていきましょう。
(1)宇宙基本法
「宇宙基本法」とは、「宇宙活動に対して日本がどのような体制で臨むのか」といった基本的な事項を定めた法律です。
2008年8月に施行されました。
目的は、国内の宇宙開発への基本理念の明確化、及び、宇宙開発の発展です。
宇宙基本法では、以下の6つの基本理念を掲げています。
- 平和的主義に則った宇宙科学ミッションの追求
- 国民生活の向上
- 産業の振興
- 人類社会の発展
- 国益に資する国際協力の強化推進
- 環境への配慮
さらに、理念を実現するための手段として、
- 安全保障に向けた宇宙開発の推進
- 国民生活向上のための人工衛星利用
- 人工衛星などの自立した打ち上げ能力の保有
- 民間による宇宙開発の推進
などが打ち出されているのです。
参考:宇宙基本法
(2)宇宙基本計画
「宇宙基本計画」とは、日本の宇宙政策の基本方針です。2009年6月に決定されました。
宇宙基本法に基づいて、宇宙開発・利用に関する施策について、総合的かつ計画的な推進を図ることを目的としています。
この宇宙基本計画を作成しているのが、「宇宙政策委員会」です。宇宙政策委員会とは、日本の宇宙開発計画に対する、調査や審議を目的とした、内閣府に設けられている審議会です。
2012年、文部科学省の審議会の宇宙開発委員会を廃止した後、宇宙基本法に基づき、2012年7月、新たに内閣府に設置されました。
宇宙政策委員会では、
- 宇宙開発利用の推進に関する基本的な方針
- 宇宙開発利用に関して政府が実施すべき施策
- 宇宙基本計画に基づく施策の推進
について定めています。
そして、2020年に改定された「宇宙基本計画」では、大まかに以下4つの柱を中心に、今後10年間の、日本の宇宙政策における基本方針を示しています。
- 宇宙安全保障の確保
- 災害や地球規模の課題への貢献
- 国際宇宙探査への参画
- 経済成長と民間活力の活用によるイノベーションの実現
具体的には、
- 小型惑星設置の増加や運用構想の検討
- 日本人宇宙飛行士の月面着陸を含めた活躍機会の確保
- アメリカとの連携
- 衛星データの利用拡大
などの計画を達成することが盛り込まれています。
また、2030年代前半には、国内宇宙の市場規模を、2020年時点の約1.2兆円から倍増させる目標も明記されました。
参考:宇宙基本計画|内閣府
(3)準天頂衛星システム
準天頂衛星システムとは、「準天頂軌道」という日本の真上にある軌道を通る衛星などを使って、正確な位置情報を計算する日本の衛星システムです。
英語では、QZSS(Quasi-Zenith Satellite System)と表し、アメリカの衛星システム「GPS」と互換性があるため「日本版GPS」と呼ばれることもあります。
2023年現在では、準天頂軌道を回る衛星は「みちびき」と呼ばれるものです。宇宙航空研究開発機構(JAXA)によって、2010年9月に初号機が打ち上げられました。
2023年5月時点では、4機体制が整備され、
- 総務省
- 文部科学省
- 経済産業省
- 国土交通省
などの協力のもと、JAXAがシステムの整備・運用を担当しています。
画像出典:みちびきとは|内閣府
準天頂衛星システム「みちびき」の大きな特徴は、機体を増やすほど、安定感と精度が高まる測位補正技術です。
従来のGPSを用いた測位では、地球にある電離層を受け、どうしても約10m誤差が生じてしまうことも、しばしば発生していました。
一方、みちびきでは、この誤差を解消するために補強電波を送信しています。そのため、両者を組み合わせることで、その精度を約1m以下にまで精度を高められるようです。
みちびきでは、今まで以上に安定的かつ本来の位置情報に近い情報が得られるとして、現在は従来のGPSと一体となって活用されています。
内閣府は、宇宙基本計画にて「2023年度をめどに持続測位可能な7機体制での運用を開始したい」としています。
参考:みちびきとは|内閣府
3、世界各国の宇宙政策について
宇宙産業の急速な拡大を背景に、世界ではアメリカやロシアを筆頭に、宇宙開発における参入国の数は増加傾向にあります。
ここからは、以下の国が取り組んでいる宇宙政策についてそれぞれ紹介します。
- アメリカ
- 欧州
- 中国
- ロシア
参考:各国宇宙政策等一覧表
参考:世界の宇宙産業の動向|日本航空宇宙工業会
参考:国際宇宙探査及びISSを含む地球低軌道を巡る
参考:最近の動向|文部科学省
(1)アメリカ
2019年5月には、約9年ぶりに有人宇宙船を打ち上げ、アメリカは「世界最大の宇宙大国」として名高いです。
アメリカでは、開発プログラムを有する機関として国防総省、航空宇宙局に加えて
- 国家安全保障会議(NSC)
- 科学技術政策局(OSTP)
- 行政管理予算局(OMB)
などといった機関も宇宙政策に関与し、分散的な開発体制を設置しました。
宇宙からのミサイル迎撃システムの開発や、宇宙軍を1万6000人体制で発足するなど、安全保障面での能力強化にも力を入れています。
近年では、国防総省・航空宇宙局がともに、国内の民間事業者の新規参入にも力を入れており、民生分野では、NASAやNOAAなどが宇宙開発利用を進めています。
2023年現在、探査車を用いた、火星での探査ミッションや、月面着陸を目指す「アルテミス計画」が進行中です。
アルテミス計画は、人類が月に着陸したアポロ計画が終了して以来、約52年ぶりの有人月面着陸であることから世界から注目が集まっています。
(2)EU
EUでは、宇宙システムを戦略的な資産として捉え、宇宙活動を自国の成長と雇用確保のための原動力と位置づけています。
こうした背景のなか、
- EU
- ESA(欧州宇宙機関)
- EUMETSAT(欧州気象衛星開発機関)
- 各国の宇宙機関
が並列して、宇宙開発を促進してきました。
具体的な役割は、
- 測位や環境監視などはEU
- 有人を含む科学ミッションやロケットの打ち上げ政策に関してはESA
- 気象衛星や地球観測衛星に関してはEUMETSAT
が担当するという具合です。
そのほか、安全保障などに関しては各国の宇宙政策で補っています。
ちなみにESAとは、1975年にフランスや西ドイツ、イタリアをはじめとするヨーロッパ各国が協力して、宇宙開発を進めることを目的に設立した研究機関です。
人工衛星の開発などを実施し、アメリカや日本、カナダなどが協力して運用している国際宇宙ステーションにも参加しています。
また、ESAの2020~2022年の3年間の総予算は、144億ユーロです。前年と比べても大幅に増額していることからも、期待の高まりが感じ取れるでしょう。
(3)中国
中国では、旧国家国防科学技術工業委員会の傘下にある国家航天局(CNSA)を中心に政策を進めています。
中国の宇宙政策は、とくに軍事色が強いといわれますが、それには
- 国家航天局
- 打ち上げ射場などの設備
- 国営企業
などの施設が、すべて軍の組織の下に置かれているという点が、大きく関係しているようです。
中国の衛星製造数は、2018年に71機と、その数は前年の2.4倍に増加しました。2017年には、1位だった欧州の61機を抜いて世界1位となりました。
画像出典:世界の宇宙産業の動向|日本航空宇宙工業会
さらに人工衛星や探査機の打ち上げに関しては、2018年にはアメリカを上回りました。6月には「中国版GPS」と呼ばれる、独自の位置情報システム「北斗」の運用を開始しました。
これにより、中国に向かって進む各国の艦隊は、空母の位置を正確に把握することが可能になったといわれています。
今後は以下の実現に向けて、宇宙開発に注力しているようです。
- 新たな宇宙ステーションの建設
- 月への有人飛行
この背景には、国家の威信や安全保障、そしてアメリカの覇権的地位への挑戦といった要因の存在がある、という見方もあります。
(4)ロシア
ロシアでは、大統領直轄の国防省に加えて、宇宙計画については連邦政府直轄のロシア宇宙庁(ROSCOSMOS)が中心となって取り組んでいます。
具体的な宇宙計画としては、
- 超重量級ロケット(打ち上げ能力50トン)の打ち上げ
- ロシア人宇宙飛行士による有人月探査ミッション
- 低軌道での衛星の給油・補修技術の確立
などの実行を、2030年までに計画しています。
また、ロシア独自の宇宙ステーションを開発するといった理由から、2021年4月には「2025年以降は国際宇宙ステーションには参加しない」との意向を明らかにしました。
まとめ
宇宙は未知なる領域が多い空間であるものの、宇宙活動を巡る技術や環境は目まぐるしく変化しています。かつて夢とロマンで語られた宇宙は、各国が優位を狙って争いを繰り広げる場と化しています。
国境なき空間である宇宙の開拓について、今後の日本の戦略に注目です。
『ポリスタ』で公開されている宇宙関連の動画
『ポリスタ』は、自民党議員と若手の有識者が政策に関するディスカッションや対談を行うクロストーク番組です。是非以下の動画もチェックしてみてください。