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政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー初代スタートアップ担当大臣 山際大志郎議員に聞く!スタートアップ政策のキモと今後の展望

初代スタートアップ担当大臣 山際大志郎議員に聞く!スタートアップ政策のキモと今後の展望

投稿日2024.5.2
最終更新日2024.05.02

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経済成長の一つの柱としてスタートアップが注目される中、政府は「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、2027年度までにスタートアップへの投資額を10兆円規模とすることを目指しています。今回は初代スタートアップ担当大臣を務めた山際大志郎議員に、スタートアップ政策への思いや「スタートアップ育成5か年計画」の現状、山際議員が注目するテクノロジーなどについて、お話を伺いました。

山際大志郎議員インタビュー

山際大志郎(やまぎわ だいしろう)議員
1968年生まれ。2003年、衆議院選で初当選し、獣医師から政治家へ転身(6期)。
2021年、経済再生担当大臣就任。2022年兼スタートアップ担当大臣。
好きなものは炊き立ての白いご飯。

(文責:株式会社PoliPoli 中井澤卓哉)
(取材日:2024年4月1日)

(1)生命への尽きない興味 獣医から政治家へ

ー山際議員はなぜ獣医から政治家に転身したのでしょうか。

私は「生命」に対する興味が尽きない少年でした。「生きる」ってどういうことなのか、ずっと不思議に思っていて。生き物のことをより知りたいと思い、獣医の道を志したのです。

獣医の道に進んでからは、とある問題意識を持つようになりました。それは「あまりにこの世の中は生命がないがしろにされているのではないか」というものです。私たち自身が自分たちの持続可能性を損なっているのではないか、といった危機感につながります。

私たちホモ・サピエンス(新人)は約30万年ほど続く種ですが、ホモ・エレクトロス(原人)はおよそ200万年続きました。本来であればホモ・サピエンスも同じくらい続く可能性があるのかもしれませんが、現状のままでは35万年から40万年で滅びてしまう可能性があるなと。私たちが自分の生活する環境を自ら壊し、ほかの生物にもよくない影響を与えていますから。

これではダメだと。人類は他の生物とバランスをとって生きていくようにしなければと思うようになります。そのためには自分は何ができるか考えて考え抜いた結果、世の中を作るルールを作る側に回るしかないと決意したのです。民主主義の世界でルールを作ったり変えたりすることができるのは政治家しかいません。

山際大志郎議員インタビュー

ー2003年の初出馬のきっかけは何かあったのでしょうか。

政治を志す中で、まずは一人前の社会人にならなければならない。その思いで、当時5つ以上の動物病院を経営していました。病院での片付け中に、患者さんが持ってきた新聞をたまたま手に取ったんですね。「新聞をめくるなんて久しぶりだな〜」とふと中を見てみるとほんの小さな自民党が候補者を公募する3行記事が目に入って。「これだ!」と思い、すぐに応募しようと決めました。小さなきっかけから始まったドラマのような展開でしたね。

(2)スタートアップ政策への思い

ー獣医というご経歴からもさまざまな政策に携わっている中で、山際議員の政策の柱は何でしょうか?

やはり経済政策です。

まずは「新しい資本主義」。資本主義の経済発展に良い部分と悪い部分がある中で、悪い部分を今一度改め、資本主義経済を深化・発展させていくことが必要との考えに立ちながら、仲間と議論し、政策を練り上げてきました。

これまでは民間だけに任せておくと、大企業だけが儲かる仕組みになってしまっていた。なので今後は社会全体の利益を考え、官が強いプレーヤーとなり、資本主義を回していく形をとらなければならないと考えました。

環境問題はわかりやすい例です。今までは「経済発展のためにはそれ以外のことを犠牲にしてでも儲けを出すこと」が正義でした。ですが、それではもう人類は生き残れない。そこに環境への配慮と経済活動をなんとか両立させようとする潮流ができつつあります。

環境と経済の両立を目指す取り組みは、これまでは単なるコストでしかありませんでした。しかし、これからの時代は社会課題の解決はビジネスの原動力になります。「新しい資本主義」の根本的なコンセプトは「課題解決を経済のエンジンに変えていく」ことなんですね。

官民が協働して課題解決をビジネスにしていく中で、担い手になるのはやはり若者です。新しい感覚と課題感を持っている若者たちへの投資を後押ししていけば、好循環がどんどん生まれるのではないかと。具体的な支援先はスタートアップ企業です。そこで「スタートアップ育成5か年計画」が立ち上がったわけです。

山際大志郎議員インタビュー

ー2022年に初代スタートアップ担当大臣に就任されて、率直にどんな気持ちでしたか。

「やっとスタートアップを国の政策としてビルトインできたな」という感覚でした。

実は10年ほど前からすでに、スタートアップをめぐる議論は自民党の「知的財産戦略調査会」で行われていました。経済をもっと元気にするために、イノベーションをどうすれば起こし続けられるか、長年の議論の蓄積があったんですね。

そこでの問題意識は一貫しています。新しい価値(技術)を見出し、それが製品となり、市場で売れる。その原資が新たな投資に回る自律的な仕組みがぐるぐる回り、発展していくシステムができあがれば、どんな政権になろうと社会ではどんどんイノベーションが起こり続ける社会になる。そのようなエコシステムを作ることです。

ースタートアップを盛り上げるために必要なことは何でしょうか。

スタートアップを振興していくためには次の3つの条件をそろえる必要があります。

(1)アイディアを持っている人
(2)資金を拠出するプレイヤー
(3)これらが出会う場所

(1)は、大学が一番強い。若い人が集まる場所ですからね。

(2)は、企業が持っているたくさんの資金をスタートアップに直接投資していく流れを岸田政権では作ろうとしています。

(3)の出会いの場所についても整備しつつあります。たとえば「グローバル・スタート・アップキャンパス」を東京都渋谷区と目黒区の間に設置する予定です。

今、政府の政策は「スタートアップ育成5か年計画」から具体的な環境整備を進めていく段階にきています。

ーこの「グローバルスタートアップキャンパス」、アメリカからマサチューセッツ工科大学(MIT)が入ることでも話題になりました。

MITの日本上陸は社会に相当な衝撃を与えるだろうという感覚はありました。ディープテック(※研究を通じて得られた科学的な発見に基づく新技術)の分野でMITの右に出る大学はありません。

MITのような世界最高水準の環境へアクセスできる機会を、日本のイケてる若者に作りたかったんです。世界水準の技術や叡智に触れると自分の持っている能力がポンと開花する。若者にそんな経験を作れたら最高ですね。

もちろんこれはスタートアップを盛り上げるための一施策でしかありません。シンボリックに扱われていることは良いことですが、これで全部が変わるとは思っていません。

山際大志郎議員インタビュー

ー山際議員注目のスタートアップ業界は。

たくさんありますが、まずはディープテック。

代表格はやはりバイオではないでしょうか。研究の蓄積がものを言う領域なので、日本のスタートアップは十分、世界で戦えると思います。山中伸弥教授のiPS細胞をはじめ、日本には得意領域もあります。たとえば大阪・中之島にある「未来医療国際拠点」のような再生医療の拠点が中心になって花開いていくことを期待しています。

エネルギーの分野も可能性があります。政府は2050年にカーボンニュートラルを実現する目標を宣言しました。この実現のためには化石燃料を使うエネルギー体系から次世代のエネルギー体系へ構造転換をする必要があります。そのためにはイノベーションが必要です。

エネルギーにまつわるディープテック、たとえば水素やアンモニア、太陽光発電、原子力発電、核融合などのフュージョンエネルギーなど未来に期待できる多くの分野があります。スタートアップ企業が中心となり素早い社会実装を期待しています。

ー日本発のスタートアップに期待することは。

ソフトな話で言うと、日本人の「イマジネーション」や「妄想力」のレベルは世界の中で飛び抜けていると思います。「鉄腕アトム」や「ドラえもん」など、「こんなのがあったらいいな」というサイエンスフィクションの世界が今や現実のものになりつつあります。

その一方、日本人は「技術で勝ってビジネスで負ける」とよく言われます。世界は私たちが思う以上にしたたかです。日本が技術を開発しても特許を取るのは中国、のようなことが起きるわけですね。

なので、新たなテクノロジーを社会実装しようとするプレイヤーを日本政府としてどのようにサポートできるかを考え続けています。官民が協同し、バンバン新しい技術を世界に出して行ければ、日本から世界を牽引するウルトラスタートアップが生まれると思います。

山際大志郎議員インタビュー

ー新しい技術と日本社会の相性はどうでしょうか。

一般的に日本は新しい技術を受け入れるスピードが遅いですよね。たとえば電動キックボードは2023年に改正道路交通法が施行され、街中を走る姿を見かけるようになりました。

さかのぼること2014年。私がアメリカのサンフランシスコに出張した際にはすでに電動キックボードが走る光景を見ました。日本への導入にはそこから10年ほどかかったわけです。これが日本のスピード感です。

新しいテクノロジーを社会が受け入れていくためには「社会受容性」は必須です。日本人の保守的な部分にはよしあしがありますが、悪い部分を議論していても仕方ありません。技術の練度を上げ、徐々に徐々に保守的な人たちにも受け入れてもらえるようにしていくしかないんです。

その中でも現実の問題はすでにのっぴきならない局面を迎えています。過疎地域ではすでに病院に行きたくても行けない方がいる。そこに時速30キロでもよいから、自動運転でずっと巡回してくれるコミュニティバスがあれば生活は便利になります。

自動運転やライドシェアなど新しい技術は現実に発生している問題を少しずつ解決していく目的で普及させていくべきです。新しい技術を社会で展開しようとするプレイヤーが社会で受け入れてもらえるようにいかに調整するかは政治家の腕にかかっていると思います。

ー「スタートアップ育成5か年計画」、現在2年目ですがどう注目していますか。

政府も自民党ももっと盛り上げるための仕掛けを作っていかなくてはなりません。政府は「5年でスタートアップを10万社つくる」ことを掲げています。ただ急成長・急拡大するスタートアップを育成するわけですから、ハードルは高いです。

もう一つ。日本人は0から1を作り出すことよりも、1から100にする能力に長けている人が多いと思います。

もちろん日本にも0から1を作り出した偉大な起業家や研究者はいます。ただし、社会全体としてそれが得意かと言われるとそうじゃないかもしれない。

その前提に立つと発想の転換ができます。たとえばアメリカの「GAFAM(※米国の主要IT企業5社の社名頭文字を合わせた総称。Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftのこと)に負けた」との意識を持つのではなく、GAFAMのプラットフォームをうまく利用して、いかに素晴らしいイノベーションをつくり出すかを考えればいい。それだって国際社会に多大な影響を与えうることですし、政府としてもサポートしていきます。もちろん新しい日本発のプラットフォームも全力で応援しますよ。

ー現実的な考え方ですね。

経済分野に注力する政治家は、経済社会に対してリアリスティックな考え方を持っています。そもそも企業はお金を稼げなければ存在意義はありません。ダーウィンの言葉を借りるまでもなく「適者生存」が資本主義のルールです。環境にうまく適応したものだけが生き残る。ビジネスってそういうものじゃないですか。それを前提に経済政策を作っていかないといけないと思いますね。

(3)3世代で子育てできる環境をつくる

山際大志郎議員インタビュー

ー山際議員が政治家として成し遂げたいことは。

政治家を志した原点に立ちかえり、「生命の尊厳」が当たり前に守られる社会を作りたいです。そのためには国民が自分の足で立って生きていけるようにならなくてはいけません。私が経済政策を重視するのもこの考えからです。

人間が社会の中でバランスをとって生きていく私なりの「処方せん」は、3世代で子育てができる環境を整えることです。

子どもとおじいちゃん・おばあちゃんがお互い必要とされている実感を持てる環境こそが社会をよりよい方向へ向かわせるために大事だと思っています。子育てにヒトの生物としての「自然な生活」が凝縮されていると思うんですよね。

残念ながら、都市部では核家族化が進み、子どもがおじいちゃん・おばあちゃんと一緒に生活することはなかなか難しくなっています。三世代がお互いによい影響を与えながら生活できる環境を、都市部でも作りあげることを政治家としてのゴールとして実現したいです。

ーヒトという生物として政治を考える。スケールが違いますね。最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

自己評価を高くしてほしいです。日本人は潜在能力は高いのに、自己評価が低いと感じます。自信を持って、一人一人の「無理のない頑張り」が世の中を明るくすることは間違いありません。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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