現役世代の社会保険料負担が年々増大する中で、政府は昨年「異次元の少子化対策」を発表しました。財源の一部となる子ども・子育て支援金は社会保険料に上乗せされることとなり、多くの賛否の声が上がりました。
今回のインタビューでは、医療・介護事業の経営者を経て、現在は日本維新の会で社会保障政策を中心に取りまとめる一谷勇一郎議員に、税と社会保障制度の見直しに取り組む思いや一谷議員の政治家としての原点についてお伺いしました。
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)(取材日:2024年7月1日)
一谷 勇一郎(いちたに ゆういちろう)議員
1975年大阪府大阪市生まれ。関西医療学園専門学校卒業。
プロゴルファーを目指し渡米するが、怪我をきっかけに選手のサポート役である柔道整復師となる。
2003年整骨院を開業、2011年介護事業を立ち上げ。
2021年衆議院議員選挙初当選。
(1)社会保障改革を目指し、経営者から政治家の道へ
ーまず、一谷議員が政治家を目指したきっかけについて教えてください。
私はもともと政治に関心があった方ではありません。政治家になろうと思ったのは、介護事業所を経営しているときに、社会保障制度に疑問をもったことがきっかけです。
もともと私はプロのゴルファーを目指していました。高校卒業後に渡米し、プロテストにも挑戦しましたが、怪我をきっかけに断念。日本へ帰国し、国家資格である柔道整復師の資格をとり、独立して整骨院を開業しました。柔道整復師とは、骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷などの怪我に対して治療を行う外傷のプロのことです。専門学校に通いながら、整骨院で働き、3年で独立開業するという目標を達成しました。
整骨院の経営を行っていくなかで、「後輩たちの雇用をもっと増やさなければ」と感じ、介護事業にも参入します。柔道整復師の業界は実は右肩下がりの状況で、自分はこのままでも食べていけるけれど、下の世代が成功するためには介護分野でも柔道整復師が活躍できるようにしなければならないと思ったんです。
2011年に介護事業に参入したとき最初に感じたのは、医療・介護・福祉とそれぞれ専門の異なるスタッフが関わるため、意思疎通が難しいということでした。会議をしていても、お互いの話がわからないことがあり、この問題を改善しなければと思いました。そこで、職員一人一人にタブレットを貸与し、チャットツールや介護ソフトの導入を行いました。これが成功し、残業ゼロ、ペーパーレスを達成。経済産業省の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定されました。
これをきっかけに、介護事業者などを対象にさまざまな講演を行うようになります。政治への関心が生まれたのはこの頃からです。高齢化が進む中、社会保障費は右肩上がりで増え続けています。とりわけ、介護費用の伸びが著しく、2023年度の社会保障給付費ベースの介護費用は13.5兆円。2000年度は3.3兆円だったので4倍以上に膨れ上がっています。ここまで大きな額となったのは、2000年に介護保険制度が設立され、介護サービスの供給体制が整ったことも影響しています。介護サービスの利便性が向上したことで介護需要が掘り起こされたのです。しかも介護サービスにかかる費用のうち、半分は保険料ですが、半分は公費、つまり税金でまかなわれています。若い世代につけを回す政治が行われていることに疑問を感じ、なんとかして変えなければならないと思いました。そして、社会保障改革に取り組むなら国会議員にならなければと思いました。
ー政治家を目指すことについて、迷いはなかったのでしょうか。
政治家を目指すと決めたとき、あまり迷いはありませんでした。私が政治家を目指すのを最初に後押ししてくれたのは妻です。もともと妻は「あなたは政治家に向いてる」と言っていたんです。
また、私の柔道整復師の師匠も突拍子もない私の目標を応援してくれました。はじめ、「政治家になろうと思うんです」と言うと、「本気でゆうてんのか」と驚かれましたが、私が本気なのを知ると、日本維新の会・東徹参議院議員を紹介してくれました。大阪城公園や天王寺動物園前などの開発で、もともと維新の会によいイメージを持っていたので、維新の会から出馬したいと考えていたんです。維新政治塾にも参加して政治を学び、党の公認を得ることができました。2021年の衆議院議員選挙では、小選挙区では惜敗しましたが、比例代表で復活当選を果たすことができました。
ー国会議員になられたあと、経営者時代とどのようなギャップを感じましたか?
民間の経営者と比べると、やはり国は歳入と歳出のバランスをとろうとする意識が低いと思います。民間企業では、ある分しかお金は使えませんが、国は国債発行でまかなうことができるので、どうしても経費削減への意識が低いのではないかと思います。
また国が担当する範囲が広すぎだと感じます。安全保障や防衛、経済政策など国が舵取りを行うべき領域に集中できるように、福祉など国民生活に身近な問題は、もっと地方自治体に権限と財源、そして人材を渡していくことで適正な役割分担ができるのではないかと考えています。
(2)現役世代のための社会保障改革とは
ー社会保障改革について、一谷議員は現役世代の負担軽減を訴えています。まず、何を変えていく必要があるのでしょうか。
社会保障費が増え続けるなか、社会保険料負担がかつてなく重くなっています。まず、変えるべきは日本の医療制度です。あまり知られていませんが、現役世代の払っている健康保険料から年間7兆円が後期高齢者医療に充てられています。日本の医療では、1日でも長く生きることがよしとされ、終末期医療にも無尽蔵にお金を投入しています。しかし、それが一人一人の幸せに本当につながるのか、一度立ち止まって考えるべきです。私は、医療費を削減することが高齢者の不幸につながるとは思っていません。無理に長生きするのではなく、死を受け入れる生き方はかえって幸せなのではと思います。
また税制改革も必要です。日本では所得に応じた課税が行われるため、働いている現役世代は税を多く負担しなければなりません。一方、資産があっても所得が少ない高齢者の税負担は軽くなっています。高齢者が増え、現役世代の負担が重くなるなかで、税の構造についても見直しが必要だと思っています。
ー今国会で、子ども・子育て支援法が成立しました。一谷議員は、子ども・子育て支援法の意義と課題についてどのように考えますか。
まず、子ども・子育て支援法の意義について。少子化が加速するなかで、児童手当の支給期間の延長、第三子以降3万円の増額は評価できる部分だったと思います。児童手当はいわば子どもに対するベーシックインカムです。最近はあまり掲げていませんが、ベーシックインカムは日本維新の会がもともと目指していた政策の一つです。
一方、課題もあります。特に財源の一部となる子ども・子育て支援金を社会保険料に上乗せしたことは最大の問題だと思っています。この背景には、防衛増税で批判された岸田総理が増税を嫌ったため、社会保険料に上乗せする形にした経緯があります。増税の話をすると支持率が下がるので、政治家は誰も増税に触れられなくなっています。社会保険料の負担が重いのは40-50代の子育て真っ只中の人たちです。現役世代から集めた金を現役世代に配り直しているという点では無駄が多い制度設計になっていると思います。
(3)一谷議員の今後の活動について
ー今後、一谷議員が取り組みたい政策テーマについて教えてください。
まず、大阪都構想をはじめとする統治機構改革です。東京一極集中が続いていますが、少子化対策と地震リスクを考えると、ある程度地方への分散が必要です。
次に、政治改革に取り組みたいと思っています。有権者が高齢者に偏るなかで、選挙権を持つ年齢を大幅に引き下げることを検討するべきです。同時に、若い方や妊産婦、病気の方などがもっと気軽に投票できるようなインターネット投票の導入も重要です。日本では官僚によるガバナンスがしっかりと効いているので、国民がなかなか政治に関心を持ちにくい構造にあると思いますが、若者世代も政治に関心を持ち、気軽に投票してもらえる仕組みを作れるように活動していきたいと思います。