高齢化率30%が目前に迫る一方で出生数は過去最低を更新し、少子高齢化の進行が止まりません。また、昨年度(2022年度)の病気やけがの治療のため全国の医療機関に支払われた医療費が過去最高となるなど、「社会保障」に関するニュースは「暗い」ものばかりです。
そんな中、自民党内では「明るい社会保障改革推進議員連盟」が立ち上がり、「明るい社会保障改革」としてさまざまな政策パッケージが検討・提言されています。社会保障改革のいったい何が「明るい」のか?「明るい社会保障改革推進議員連盟」の事務局長を務める佐藤啓議員(以下、佐藤議員)に、今進めている社会保障改革や、佐藤議員自身の政治への思いなどを聞きました。
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 中井澤卓哉)
佐藤啓 氏
1979年生まれ(44歳)。参議院議員(2期)。財務大臣政務官。
総務省を退職後、2016年、奈良選挙区から出馬し初当選。
3歳の息子を持つ。趣味はテニスとマラソン。
(1)「等しくチャンスのある社会を作りたい」という思いから政治へ
ー佐藤議員は、総務省を退職後、2016年に立候補されています。なぜ政治家を志したのでしょうか?
「等しくチャンスのある社会を作りたい」という思いから、政治家を志しました。
学生の時からこの思いは変わっておらず、総務省に入省したのも、どの地域でも等しく質の高い行政サービスを受けられる環境を整備するという観点で「等しくチャンスのある社会」に貢献する仕事ができると考えたからです。
今、育った環境によってこどもの将来が決まってしまうことを揶揄した「親ガチャ」という言葉が流行っています。私が学生の時にも、親の経済状況によってこどもの将来が決まってしまう、ということがあり、当時から疑問に感じていました。
政治家になろうと具体的に考えるようになったのは、2011年、震災直後の茨城県常陸太田市に出向して、子育て支援施策を一から作りあげた経験からです。
当時、福島第一原発事故の影響などもあり、常陸太田市の人口が急減して課題となっていました。そこで、市長から何か目玉になるような施策をやってほしい、と頼まれ、子育て支援に取り組みました。おかげさまで、「2018年版 住みたい田舎ベストランキング」では「子育て世代が住みたい田舎 第1位」を獲得することができました。
その時に感じたのは、住民の声が国の政策に反映されるまでに時間がかかっているということです。今、国を挙げて少子化対策や子育て支援に取り組んでいますが、地方ではもっと前から課題になっていました。特に現役世代は、高齢者と比べて数が少なく、また日々の生活で忙しくなかなか政治に関わることができないため、国の政治に声が届かないという根本的な課題があります。地方自治体では、住民の声をダイレクトに聞くことができ、この声を国政にも届けなければと感じました。現役世代として、この経験を生かして国を変えていきたいと思い、総務省を退職して立候補することにしたんです。
株式会社宝島社, プレスリリース(2023年10月10日最終閲覧)
(2)「明るい社会保障改革」とは
ー佐藤議員は「明るい社会保障改革推進議員連盟」の事務局長ですが、「明るい社会保障改革」について教えてください。
「明るい社会保障改革推進議員連盟」ができたのは2019年、安倍政権の時です。当時、安倍総理には、「サービスを減らす」か「負担を増やす」かという社会保障改革の暗い議論を、他の方法で解決したいという思いがありました。
そこで、衆議院から加藤勝信先生、参議院から世耕弘成先生を顧問に迎えて、新しい社会保障改革の議論を始めたのがこの議員連盟です。
ー「明るい」社会保障改革ということですが、「明るい」とはどのような意味なのでしょうか?
病気の予防と健康づくりに力を入れているからです。病気の予防と健康づくりによって、個人が健康になる、健康な人が増えれば働く人が増える、働く人が増えれば税収や社会保険料収入が増えて、社会保障制度の持続可能性が高まるという理屈です。
「明るい社会保障改革」では、(1)個人の健康(2)持続可能な社会保障(3)ヘルスケア分野のイノベーション促進――という三方よしの実現を目指しています。
ー「明るい社会保障改革議員連盟」は、具体的にどんな活動をしているのでしょうか?
例年、5月ごろに提言を取りまとめています。5月に提言を出すのは、取りまとめた内容を6月に閣議決定される骨太の方針に盛り込むためです。
今年は3月に「女性の健康増進に向けた政策パッケージ」を取りまとめ、加藤勝信厚労大臣に申し入れを行いました。
佐藤啓公式サイト,「3/30 明るい社会保障改革推進議員連盟 提言「女性の健康増進に向けた政策パッケージ」を加藤厚労大臣に申し入れ」(2023年10月10日最終閲覧)
ー今年2023年の提言では、「女性の健康」に焦点を当てています。この点の意図について教えてください。
女性が長く健康に活躍できる環境を整える必要があるからです。
生産年齢人口が減る中、アベノミクスでは就業者数の確保を一つの柱として、女性と高齢者の労働参加率の向上に取り組みました。結果、女性や高齢者の就業者数は増えましたが、足下では頭打ち感が見られます。
そんな中、女性が生理や更年期といった女性特有の健康課題によって、働くことができなかったり、十分に能力を発揮できなかったりするのではないか、という懸念が生じたのです。
月経痛やPMS、更年期障害など、一人一人困っていることや症状は違うので、最終的には、かかりつけのお医者さんに診てもらいましょう、という話になるのですが、そのためには、男性も女性の健康問題について理解する必要があるし、当事者である女性自身も女性の健康についてリテラシーを高めていく必要があると考えています。
今、私たちの提言で取り上げている中で特に力を入れているのは、労働安全衛生法に基づく健康診断の項目の変更と、女性の健康に特化したナショナルセンターの創設です。
健康診断の項目変更については、これまで働く人の多くが男性だったことから、メタボリックシンドロームの項目など、主に男性を念頭に置いたものになっていました。女性の働き手が増えた今、月経困難症や更年期など、もっと女性の健康課題を拾い上げられる健診項目を増やす必要があると考えています。
健康診断の項目変更については、現在厚生労働省がどのような項目が必要かを検討するために、働く女性5000人を対象に調査を行っていて、今後政省令改正を経て実現する見込みです。
女性の健康に特化したナショナルセンターについては、がんなら国立がん研究センターがあるように、女性の健康についても国の機関を置いて対応すべきと考えたからです。これは来年度には実現する見込みです。
(3)提言を出して終わりではダメー関係者の理解と巻き込みが重要
ー提言の内容が実現に向けて動いているとのことですが、それまでに大変だったことや苦労したことなどを教えてください
政策を実現するにあたって重要なのは、関係者を巻き込んでいくことですね。
そもそも、提言するだけなら簡単です。こういったことが大事だ、と紙に書いて出すだけでいい。提言で終わらせるのではなく、実現に向けて、役所だったり関係者だったりを動かしていくことが政治家の腕の見せ所だと思います。政策を実現する上でさまざまな関係者の協力が必要ですが、官僚の方々も忙しく、それぞれの思いもあって、さまざまな調整の結果、当初思い描いていたものと全く違うものになってしまうことも多々あります。
先ほどの女性の健康に関するナショナルセンターの話であれば、厚生労働省の当初の案では、国立成育医療センターに女性の健康に関するナショナルセンターを置き、研究機能のみを持たせる、ということだったのですが、私は、研究機能だけではなく、臨床機能も持たせるべきではないかと考えて議論を続けています。
ただ言いっぱなしではなく、きちんと経過をチェックして、関係者を巻き込んで理想の形に持っていくことが重要だと思います。
(4)栄養政策、DX、睡眠など…今後の取り組みについて
ー「明るい社会保障改革推進議員連盟」では、毎年提言を出されているとのことですが、来年度のテーマは決まっているのでしょうか?
引き続き女性の健康を取り上げつつ、できれば栄養政策に取り組みたいと思っています。今日本では、栄養が政策課題と認識されておらず、問題だと思っています。
特に、こどもの栄養については、貧困状態にある家庭では、こどもに栄養のあるものを食べさせてあげられない家庭もあります。心身の発達する段階にあるこどもは、特に栄養が重要です。こども期の栄養状態が将来の健康に関わってくるということもあるでしょうし、給食のない時期には栄養状態が悪化する、ということがないようにしなければいけません。
ー最近話題となっている、医療DXやデータ活用について今後取り組みたいことはありますか?
マイナンバーカードに医療保険証だけではなく、個人の医療データが紐づけられることが重要だと考えています。もし、マイナンバーカードにこれまでの健診結果、検査結果や投薬歴などの医療情報があれば、同じ検査を何度もしなくてすみますし、診察や投薬の無駄を無くすことができるはずです。
また、最近スマートウォッチで色々な生体情報が記録できるようになりましたが、将来的にはこういう情報も医療現場で活用できるようになればいいなと考えています。
ースマートウォッチでいうと、最近は睡眠データに関する話題が注目を集めています。睡眠について何か政策的な議論はあるのでしょうか?
睡眠は最後のフロンティアですね。正直、まだそこまで手が回っていないのが現状です。
一日7、8時間寝るとすると、人間の一生のうち、約3分の1を睡眠に当てていることになります。どういう睡眠をとっているかがその人の健康状態に大きな影響を与えているはずで、まさに研究途上の分野なのだと思います。
睡眠のサイエンスについては、今後より追求できると面白いと思います。
(5)どんな家庭に生まれても質の高い教育を
ー最後に、佐藤議員が政治家として成し遂げたいことを教えてください。
冒頭の質問と同じ答えになってしまいますが、やはり「等しくチャンスのある社会をつくる」ことです。
どこに生まれたかで、どんな教育を受けられるかが決まってしまうのはおかしいと感じます。公教育を充実させ、どんな家庭に生まれても、質の高い教育を受けられるようにすることが重要です。
今、日本の教育は算数や国語などテストで測ることのできる認知能力を伸ばすことに特化していて、コミュニケーション能力、やり抜く力、自己肯定感のような非認知能力を伸ばすことに関しては、家庭の取り組みが重要になっています。
富裕層は、旅行に行ったり、習い事をしたりとお金をかけてこどもに様々な体験をさせてあげることができますが、一方で、所得が低い層は、非認知能力を高めるような体験をこどもに提供できなくなっています。
勉強については、学校もあれば、オンラインの学習支援もあり、支援が広がっているとは思いますが、学力以外の能力を高める経験については、どんどん格差が広がっています。どんな家庭に生まれてもこどもが色々な体験ができるよう、公教育を充実させていきたいと考えています。