国際司法裁判所(ICJ)とは、国際連合における司法機関です。
今回の記事では、
- 国際司法裁判所(ICJ)の概要
- 国際司法裁判所(ICJ)の具体的な活動
- 国際司法裁判所(ICJ)の判例、判決
- 国際的な紛争を扱う、その他の裁判所との違い
などを説明しています。
本記事がお役に立てば幸いです。
裁判所について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
1、国際司法裁判所(ICJ)とは
国際司法裁判所(ICJ)とは、国連の「主要な司法機関」です(以下本文ではICJと表記)。
国際法に基づく裁判によって、国家間の紛争を平和的に解決することを任務としています。
本部はオランダのハーグに設置され、国連の主要機関の中では、ニューヨークにない唯一の機関です。
通常、一国内の裁判所は
- 「個人対個人」
- 「個人対国家」
などの紛争を取り扱いますが、ICJでは「国家対国家」の争いを解決することが主要な役割であり、「世界法廷」とも呼ばれています。
ICJは以下のような特徴を有しています。
- 紛争の解決を行う
- 国家のみが訴えを提起できる(個人や企業などは不可)
- 紛争の解決には当事国双方の同意が必要
- 15名の裁判官で構成される
- 裁判や勧告的意見を行う
- 裁判の判決は拘束力を有する
参考:ICJ
2、国際司法裁判所(ICJ)の具体的活動
ICJは、1946年の設立以来、多数の事件を取り上げ、国連加盟国が提訴した紛争に対して判決・司法命令を下しています。
司法裁判の判決は、紛争の平和的解決を目的としていますが、国際法の発展にも大きく貢献してきました。
ICJの主な活動である
- 係争事件の裁判
- 勧告的意見
について解説していきます。
(1)係争事件の裁判
係争事件とは、裁判に持ち込まれた事件です。
係争事件の裁判は、ICJの活動の8割を占めています。
具体的には
- 国境
- 海上境界線
- 領土主権
- 武力の不行使
- 国際人道法の侵害
- 国家の内政不干渉
- 外交関係
- 人質
- 庇護を求める権利
- 国籍
- 後見人
- 自由航行権
- 経済的権利
など、広い範囲に渡って、ICJは係争事件に対する判決を下してきました。
係争事件における裁判所の手続きは、
- 書面手続き
- 口頭手続き
などから構成されます。
判決は一般的に、口頭弁論が終わった後、6か月以内に行われます。
また、当事者国の一方が判決内容に従わない場合は、安全保障理事会に訴えることができます。
(2)勧告的意見
勧告的意見とは、国連の主要機関などによる求めに対して、ICJが示す見解です。
ICJの勧告的意見はさまざまな問題を網羅しており、過去には
- 核兵器による威嚇またはその使用の合法性(1996年)
- 人権報告者の地位(1999年)
- パレスチナ占領地域における壁の建設の法的帰結(2004年)
- コソボに関して一方的独立宣言の国際法上の合法性(2010年)
などに関して勧告的意見が示されました。
3、国際司法裁判所(ICJ)の具体的判例
日本に関係する事件として、2010年5月にオーストラリアがICJに提訴し、2014年3月に判決が下された「南極海捕鯨問題」を取り上げてご紹介します。
日本では、古くから捕鯨が行われており、一部地域では鯨食が伝統文化として残っています。
しかし近年、欧米諸国を中心として捕鯨活動に批判的な国が増え、シーシェパードなどの反捕鯨団体なども出現しています。
国際捕鯨委員会(IWC)は1982年、商業捕鯨モラトリアムを採択し、クジラの「商業捕鯨」を禁止しました。
そこで日本は、禁止された商業捕鯨の代わりに、「調査捕鯨」を行うことにします。
国際捕鯨取締条約第8条では、調査を理由とする捕鯨が認められていることから、同条に基づく特別許可を発給し、南極海での調査捕鯨を開始します。
しかし、反捕鯨国のオーストラリアはこの捕鯨の実態が商業捕鯨だと見なし、2010年5月、ICJに提訴しました。
ICJは調査捕鯨の中止を命じる判決を出しました。
参考:ICJ 判例
4、国際司法裁判所(ICJ)の判決に拘束力はあるのか
裁判所の判決には通常、判決内容に従わなければならないとする「拘束力」が認められます。
ICJの下す判決にも、同様に拘束力が認められます。
国連憲章第94条国連憲章第94条は、
「各国際連合加盟国は、自国が当事者であるいかなる事件においても、国際司法裁判所の裁判に従うことを約束する」
と規定しており、国家間の紛争に対して、裁判所あるいはその裁判部によって下された判決は関係各国を拘束します。
一方で、勧告的意見に関しては拘束力が認められていません。
要請を行った国連機関あるいは専門機関は、適切な手段によって勧告的意見を執行するか否かを選択できるのです。
参考:ICJ
5、国際司法裁判所(ICJ)とその他の裁判所の違い
国境を越えた国際的な紛争を扱う裁判所は
- 「国際刑事裁判所」
- 「特別国際戦犯法廷」
などが存在しています。
ICJはこれらの機関とどのような違いがあるのでしょうか。
- 国際刑事裁判所(ICC)との違い
- 特別国際戦犯法廷との違い
- その他の国際裁判所との違い
について見ていきましょう。
(1)国際刑事裁判所(ICC)との違い
国際刑事裁判所(ICC)とは、個人の国際犯罪を裁く常設の国際裁判所です。
「国際刑事裁判所に関するローマ規程」の下、2003年3月11日にオランダのハーグに設置されました。
管轄対象となる犯罪は、
- 集団殺害犯罪
- 人道に対する犯罪
- 戦争犯罪
- 侵略犯罪
などです。
ICJは、刑事裁判所ではないので、
- 戦争犯罪行為
- 人道に対する犯罪
などを行なった個人を裁くことはできません。
また、訴訟手続きを行える検事もいません。
一方で、ICCは上記のような犯罪を行なった個人を訴追・処罰することができる点で異なっています。
(2)特別国際戦犯法廷との違い
特別国際戦犯法廷とは、国連が設置した
- 「旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(ICTY)」
- 「ルワンダ国際戦犯法廷(ICTR)」
などのように、特定の地域で行われた集団犯罪や国際人道法に対する重大な違反に対して責任を負う個人を訴追する国際裁判所です。
ICJは、国連に設置された常設の裁判所ですが、特別国際戦犯法廷は、常設の裁判所ではありません。
(3)その他の国際裁判所との違い
ICJは、さらに、以下のような国際裁判所とも異なっています。
- 欧州司法裁判所(所在地はルクセンブルク):欧州連合(EU)の法律を一律に解釈し、有効性に関して判決を行う役割を果たす
- 欧州人権裁判所(所在地はフランスのストラスブール):設立の根拠となっている人権条約違反の訴えを審査する
- 米州人権裁判所(所在地はコスタリカのサンホセ):主に人権や基本的な自由を保護するための役割を果たす
参考:ICJ
ICJに関するQ&A
Q1.ICJとは?
国際司法裁判所(ICJ)とは、国連の「主要な司法機関」です。国際法に基づく裁判によって、国家間の紛争を平和的に解決することを任務としています。
Q2.ICJの特徴は?
ICJの特徴は以下の通りです。
- 紛争の解決を行う
- 国家のみが訴えを提起できる(個人や企業などは不可)
- 紛争の解決には当事国双方の同意が必要
- 15名の裁判官で構成される
- 裁判や勧告的意見を行う
- 裁判の判決は拘束力を有する
Q3.ICJの本部はどこにある?
ICJの本部はオランダのハーグに設置され、国連の主要機関の中では、ニューヨークにない唯一の機関です。
まとめ
本記事では、国際司法裁判所(ICJ)の「係争事件」や「勧告的意見」など具体的な活動内容や、過去の事例などをご紹介しました。
国際司法裁判所の裁判などはニュースになることも多いので、ぜひチェックしてみてください。
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