行政訴訟とは、国や公共団体などによる違法な行為を裁判で争い、私人の権利利益を救済する為の制度です。
行政訴訟という言葉はニュースでも取り扱われることがあるため、耳にしたことがあるかもしれません。
しかしこれだけでは具体的に何をする裁判なのかわからないという方もいらっしゃると思われます。
そこで今回は
- 行政訴訟とは具体的に何をしているのか
- 行政訴訟の種類
などについてご紹介いたします。
訴訟について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
1、行政訴訟とは
行政訴訟は、民事訴訟とは性質が異なる訴訟類型です。
国や地方公共団体などの行政が行なった行為によって損害を被った人々を救うための制度になります。
民法などの私法を適用して争いを解決するのが、民事訴訟です。
ここでポイントなのは、民事訴訟は、基本的に対等な私人間の紛争(住民同士のトラブルなど)を前提としていることです。
一方で行政訴訟とは、争う相手方が行政庁であることがポイントです。
行政庁による行政処分*に対し、その効力などを争います(市民や企業から見て、行政の行なったことが間違っているという状態を目指して裁判が行われます)。
民法などの私法ではなく、「行政事件訴訟法」が適用されます。
また「行政処分」とは、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為により直接国民の権利義務を構成し、またはその範囲を確定することが法律上認められているもの」を指します。
国民の義務や利益に直接関係する行政の行為ということです。
例えば、役所の職員が、文房具を民間の業者に発注したとします。
この契約は、国民の権利義務などは関係ないので、行政処分にはあたりません。
また、行政指導なども、国民を法的に拘束するものではなく、指導に従わないという選択も出来るため、原則として争うことができません。
但し、実質的に権力の行使に他ならないような行政指導は処分に当たり、争うことができます。
該当する代表的な例として、営業停止処分や建築などの許可の取消処分などは、処分性が認められ、行政処分に当たります。
営業停止は国民の利益や権利に直接影響するためです。
こういった、行政による公権力の行使*によって侵害された、国民の権利利益を救済するのが行政訴訟です。
裁判所により判断が下されるため、司法機関の行政機関に対する監視機能も有しています。
国家賠償法における「公権力の行使」の概念は、行政訴訟における「公権力の行使」とは厳密には少し異なります。
国家賠償法における公権力の行使は範囲が広く、例えば、行政指導は行政処分には当たらない一方で、国家賠償法における「公権力の行使」には含まれるなどの違いがあります。
2、行政訴訟の種類
行政訴訟は、
- 抗告訴訟
- 当事者訴訟
- 民衆訴訟
- 機関訴訟
の4つの種類があります。
前者2つが「主観訴訟」、後者2つが「客観訴訟」と呼ばれています。
(1)主観訴訟
個々の国民の権利利益の保護を目的とする訴訟のことで、抗告訴訟と当事者訴訟が該当します。
自らの権利が直接関係しているので、主観訴訟と呼ばれます。
①抗告訴訟
抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいいます。
抗告訴訟は、さらに以下の5つに分類されます。
- 取消訴訟
- 無効確認の訴え
- 不作為の違法確認
- 義務付け訴訟
- 差し止め訴訟
取消訴訟 | 行政処分の取り消しを求める訴訟
(例:営業停止処分の取り消し) |
無効等確認訴訟 | 処分や裁決の存否、効力の有無の確認
(例:無効な課税処分によって滞納処分を受けるおそれがある場合に、課税処分の無効を確認し、滞納処分を逃れる) |
不作為の違法確認訴訟 | 申請に対し、行政庁が相当な期間内に処分・裁決を行わない場合に、その違法を確認する訴訟 |
義務付け訴訟 | 行政庁が、処分などをすべきであるのにしない場合に、その処分をするよう義務付ける訴訟 |
差止め訴訟 | 行政庁が、処分などをすべきでないのにしようとする場合に、その処分を差し止める訴訟 |
これらの抗告訴訟は併合(一緒に)して提起されることもあります。
例えば、不作為の違法確認訴訟(上の表の三段目に当たる部分です)は、行政庁に対して申請した結果、どれだけ待っても応答がない時に、その違法を確認することで処分を行わせることを目的としています。
しかし、裁判所ができるのは、違法を宣言し、行政庁に何らかの処分を義務付けるのみで、その後に市民からの何らかの申請(営業の許可を求めるなど)に対する許可処分(許可でも国民の権利利益に関わる事柄なので処分という言葉が使われます)がなされるとは限りません。
改めて申請拒否処分がなされる場合も考えられます。
その際には、「許可処分をすべきなのでしてください」といった義務付け訴訟を併せて提起することが可能です。
②当事者訴訟
当事者訴訟とは、「(ⅰ)当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び(ⅱ)公法上の法律関係に関する訴訟」です。
(ⅰ)は「形式的当事者訴訟」と呼ばれるもので、実質的には行政庁による処分を争うものですが、紛争の性質上、当事者間で争わせるべきものがこれにあたります。
例えば、土地収用法の補償額に関する訴訟が挙げられます。
起業者が土地を収用(買い取ったりして使うこと)するにあたり、補償額としていくら土地所有者に支払うのかを、行政機関である収用委員会が決定します。
この収用委員会の補償額決定は、実質的には行政処分にあたります。
この額に不満がある場合には、収用委員会に訴訟を提起すべきだと思うかもしれません。
しかし、実際に補償金を支払うのは起業者なので、起業者と土地所有者の当事者間で争わせる、というのが形式的当事者訴訟です。
(ⅱ)は「実質的当事者訴訟」と呼ばれます。
行政と一般国民が、対等の立場の当事者として争うものです。
上述した民事訴訟と似ていますよね。
例を挙げると、不当に解雇された公務員の地位を確認すること(不当な解雇の取り消しなど)がこれにあたります。
一方の当事者が公権力な点を除くと、実質的には、企業と社員間の関係と類似しているため、実質的当事者訴訟といわれます。
(2)客観訴訟
客観訴訟は個々の権利利益に直接関係するものでなく、客観的に違法な行政庁の行為を取り締まることを目的としています。
本来裁判所は、具体的な紛争(AさんとBさんが争っているという状況)を解決する場所なので、例外的な制度となります。
①民衆訴訟
選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起される訴訟です。
- 住民選挙
- 選挙訴訟
がこれに該当します。
例えば、公人(政治家、議員などを指します)の公金支出(税金として国民が納めたお金を政策実施のために利用すること)に不正があるとして提訴する場合などです。
広く国民に関わる問題ではありますが、個人の法律上の利益とは関係ないため、民衆訴訟になります。
②機関訴訟
抗告訴訟などは、片方の当事者が一般国民であることが前提でした。
対して機関訴訟とは、国または公共団体の機関が両当事者(県VS国など)となって争う訴訟です。
3、行政訴訟の裁判例
最後に、行政訴訟の具体的な裁判例を紹介します。
行政訴訟といえば、原子力発電に関する判例が有名ですよね。
例えば、原子力発電所等の設置許可に関する取消し訴訟や、無効等確認訴訟、差止め訴訟などが提訴されてきました。
これは1979年に提起された訴訟で、原発1号機の設置許可の取り消しを地域住民が求めた訴訟です。
設置に係る安全審査に問題があるとして提訴されました。
2審で棄却され上告した後、原発付近で新潟県中越沖地震が発生したことから、原発の問題点が明らかになりました。
しかし、この地震の発生は「判断を左右しない」として、2009年に住民の敗訴が決定しました。
2020年の判決では、広島高裁が決定した愛媛県の四国電力伊方原発3号機の運転差止めの仮処分などが挙げられます。
行政訴訟に関するQ&A
Q1.行政訴訟とは?
行政訴訟とは、争う相手方が行政庁であることがポイントです。行政庁による行政処分に対し、その効力などを争います(市民や企業から見て、行政の行なったことが間違っているという状態を目指して裁判が行われます)。
Q2.抗告訴訟にはどんな種類がある?
抗告訴訟は、以下の5つに分類されます。
- 取消訴訟
- 無効確認の訴え
- 不作為の違法確認
- 義務付け訴訟
- 差し止め訴訟
Q3.主観訴訟と客観訴訟の違いは?
主観訴訟は、個々の国民の権利利益の保護を目的とする訴訟のことで、抗告訴訟と当事者訴訟が該当します。
客観訴訟は個々の権利利益に直接関係するものでなく、客観的に違法な行政庁の行為を取り締まることを目的としています。
まとめ
今回の記事では、行政訴訟に関して説明しました。民事訴訟とは異なった訴訟類型でした。
訴訟の種類が多くあり、混乱したかもしれません。
ニュースなどで取り上げられることも多いので、どの類型に当てはまるか確認してみましょう。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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