ラムサール条約とは、正式には「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」と言います。
イランのラムサールという都市で開催された国際会議で採択された条約のため、通称ラムサール条約と呼ばれています。
生物多様性保全に関する地球規模の条約としては最も早く採択されているため、名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
今回はラムサール条約について以下の通りご紹介します。
- ラムサール条約の概要
- ラムサール条約における3つの柱
- ラムサール条約湿地の概要
- 日本のラムサール条約湿地
本記事がお役に立てば幸いです。
1、ラムサール条約とは
まずはラムサール条約の概要についてご紹介します。
ラムサール条約は、生物多様性保全を目的とした条約の中で最も早く採択された条約です。
正式名称を日本語に翻訳すると「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」となります。
ラムサール条約は通称ですが、そう呼ばれる理由は1971年2月2日にイランのラムサールという都市で開催された国際会議で採択された条約だからです。
日本は1980年に加入しました。
2019年2月の段階では、世界170か国が加入しています。
条約の目的は、国際的に重要な湿地とその湿地に生息・生育する動植物の保全促進です。
水鳥の生息地として重要な湿地を「守る」だけではなく、適切に「利用」されるように、各国が取るべき措置について規定しています。
条約を結んだ国は領域内にある国際的に重要な湿地を1か所以上指定し、条約事務局に登録しています。
2、ラムサール条約における3つの柱
続いて、ラムサール条約における3つの柱についてご紹介します。
以下で紹介する3つの柱は、ラムサール条約の基盤となる考え方です。
(1)保全・再生
柱の1つ目は「湿地の保全・再生」で、ラムサール条約の目的です。
湿地は、国境を越えて行き来をする“水鳥”を始めとした生き物の生息地として重要な意味を持つ場所です。
湿地に存在する様々な生態系が果たす役割は大きく、また私たちの暮らしを支える貴重な資源でもあります。
そのためラムサール条約では湿地に着目し、湿地の保全・再生に力を入れています。
(2)ワイズユース
柱の2つ目は「ワイズユース(Wise Use)」で、ラムサール条約のもう1つの目的です。
湿地を適切に保全する必要がある一方で、湿地と共に暮らす人々の生活も保全する必要があります。
地域の人々の暮らしと湿地の両方を守るためには、「ワイズユース=賢明な利用」の考え方が不可欠です。
湿地から得られる恵みを持続的に活用すること、湿地の生態系を維持すること、どちらも重要なことだからこそ、ワイズユースの考え方は条約の基盤となっています。
(3)交流学習
柱の3つ目は「交流学習」で、「保全・再生」と「ワイズユース」を促進するものです。
具体的には、以下の5つの要素を大切にしています。
- 交流:Communication
- 能力養成:Capacity building
- 教育:Education
- 参加:Participation
- 普及啓発:Awareness
上記5つは頭文字をとって「CEPA」と呼ばれ、促進すべきと考えられています。
3、ラムサール条約湿地とは
さて、ラムサール条約は「湿地」に関する条約だとご説明しました。
ここで言う「ラムサール条約湿地」とは具体的にどのような湿地を指すのでしょうか。
(1)そもそも湿地とは
そもそも湿地とは何なのか、明確に定義づけすることは難しいのではないでしょうか。
ラムサール条約では、湿地について以下のいずれかであると定義しています。
- 沼沢地
- 湿原
- 泥炭地
- 水域
- 低潮時における水深が6mを超えない海域
上記の条件に当てはまる場合、
- 天然のものであるか、人工のものであるか
- 永続的なものであるか、一時的なものであるか
- 水が滞っているか、流れているか
- 淡水か、汽水か、海水か
は問いません。
具体例を挙げると、
- 湿原
- 湖沼
- ダム湖
- 河川
- ため池
- 湧水地
- 水田
- 遊水池
- 地下水系
- 塩性湿地
- マングローブ林
- 干潟
- 藻場
- サンゴ礁
などが湿地に含まれます。
(2)国際的に重要とされる湿地の判断基準
ラムサール条約が保護すべきであると考えているのは、湿地の中でも「国際的に重要な湿地」です。
この「国際的に重要な湿地」を判断する基準となるポイントは何でしょうか。
条約で定められた国際的な基準は以下の通りです。
以下1〜9のいずれかに当てはまれば「国際的に重要な湿地」と判断されます。
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基準1:特定の生物地理区内で代表的、希少、または固有の湿地タイプを含む湿地
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基準2:絶滅のおそれのある種や群集を支えている湿地
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基準3:特定の生物地理区における生物多様性の維持に重要な動植物を支えている湿地
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基準4:動植物のライフサイクルの重要な段階を支えている湿地。または悪条件の期間中に動植物の避難場所となる湿地
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基準5:定期的に2万羽以上の水鳥を支えている湿地
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基準6:水鳥の1種または1亜種の個体群の個体数の1%以上を定期的に支えている湿地
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基準7:固有な魚類の亜種、種、科、魚類の生活史の諸段階、種間相互作用、湿地の価値を代表するような個体群の相当な割合を支えており、それによって世界の生物多様性に貢献している湿地
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基準8:魚類の食物源、産卵場、稚魚の生息場として重要な湿地。あるいは湿地内外の漁業資源の重要な回遊経路となっている湿地
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基準9:鳥類以外の湿地に依存する動物の種または亜種の個体群の個体数の1%以上を定期的に支えている湿地
4、日本のラムサール条約湿地とは
続いて、ラムサール条約と日本との関わりについてご説明します。
北海道の釧路湿原を皮切りに、日本のラムサール条約湿地は今日に至るまでに50か所以上の登録が完了しています。
日本がラムサール条約に登録している湿地の条件は世界基準と合わせて以下の通り3つあり、日本が独自に決めている条件もあります。
- 「国際的に重要とされる湿地の判断基準」のいずれかに該当すること
- 日本の法律(自然公園法・鳥獣保護管理法など)により、将来にわたって自然環境の保全が図られること
- 地元住民などから条約登録への賛同が得られること
以下では日本のラムサール条約湿地の例を、それぞれの特徴と共に3つご紹介します。
なお、今回ご紹介する湿地は全て北海道にありますが、その他の地域にもラムサール条約湿地は存在する点にご注意ください。
(1)クッチャロ湖
1つ目は平成1年7月6日に登録された、北海道の浜頓別町にある「クッチャロ湖」です。
周囲27km、面積1,607haの大規模な湖で、海岸砂丘地で海と隔てられたオホーツク海岸線最大の海跡湖です。
冬期はシベリアから南下するハクチョウ類やガンカモ類の最初の中継地となります。
特に日本で越冬するほとんどのコハクチョウ(約1万羽)がこの湖を経由しています。
保護の形態は「国指定浜頓別クッチャロ湖鳥獣保護区浜頓別クッチャロ湖特別保護地区」です。
(2)サロベツ原野
2つ目は平成17年11月8日に登録された、北海道の豊富町と幌延町に広がる「サロベツ原野(げんや)」です。
面積2,560haの高層湿原で、オオヒシクイやコハクチョウ渡来地です。
実際には泥炭地上に成立した高層湿原、中間湿原、低層湿原および沼で構成されていますが、低地の平野部でよく発達した高層湿原が特徴的です。
ペンケ沼・パンケ沼周辺は水鳥の繁殖地で、特に春秋にはオオヒシクイやコハクチョウなどガンカモ類の重要な中継地となります。
保護の形態は「国指定サロベツ鳥獣保護区サロベツ特別保護地区」「利尻礼文サロベツ国立公園特別保護地区及び特別地域」です。
(3)濤沸湖
3つ目は平成17年11月8日に登録された、北海道の網走市と小清水町にまたがる「濤沸湖(とうふつこ)」です。
面積900haの低層湿原と湖沼で、砂嘴の発達によって形成された海跡湖・汽水湖ですが、藻場や塩性湿地も発達しています。
オオハクチョウ・オオヒシクイなどの大規模な渡来地であり、またガンカモ類、シギ・チドリ類など有数の渡り鳥の渡来地でもあります。
あわせてオジロワシ、オオワシの越冬が確認されている他、タンチョウの繁殖も確認されています。
保護の形態は「国指定濤沸湖鳥獣保護区濤沸湖特別保護地区」「網走国定公園特別地域」です。
まとめ
今回はラムサール条約について詳しくご紹介しました。
ラムサール条約の概要や目的に加えて、日本のラムサール条約湿地についてもおわかりいただけたのではないでしょうか。
本記事が少しでもあなたのお役に立てば幸いです。