働く女性が増え女性の人生の多様化が進む中、不妊治療の保険適用、性暴力被害や貧困への対策など、さまざまな視点での女性への支援が重要となっています。
今回のインタビューでは、2023年に悪質ホストクラブを国会で取り上げるなど、女性への支援政策を重点的に進める立憲民主党の塩村あやか議員に、その思いと今後の女性支援政策のあり方についてお伺いしました。
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)
(取材日:2024年6月12日)
塩村あやか(しおむら あやか)議員
1978年広島県で被爆2世として生まれる。
放送作家として日本テレビ「シューイチ」「24時間テレビ」などを担当。
2013年東京都議会議員選挙に初当選。
2019年参議院議員選挙当選(1期)。
「自分でやった方が早いよ」の一言で政治の道へ
ー前職は放送作家だった塩村議員。なぜ政治家を志したのでしょうか。
元々政治家になるつもりはなかったのですが、ある政治家の方とお話したことが政治家を志す大きなきっかけになりました。
小さい頃から動物愛護に関心があり、放送作家として働きながら動物愛護活動も行っていました。ある時、政治家・有識者・文化人などを招くラジオ番組の台本の仕事をしている際、当時の民主党政権の大臣をお迎えすることになったんです。その方との打ち合わせの中で、動物の殺処分が多すぎるから今後しっかりと対策を取ってもらえないか、とお願いしてみました。すると、「僕たちは色々なしがらみがあって難しいけど、本気でやりたいなら自分で政治家になった方が早いよ」と言われて。なるほどな、と思ったのが、今振り返ると相当な後押しになっています。
ー大臣の言葉が心に響いた背景があったのでしょうか。
当時は東日本大震災の直後で、放送の現場として報道して良いこと・悪いことの制約が増え、もどかしいことがたくさんある時期でした。また、原発周辺の住民が避難の際にペットを連れていけないことを知り、どうすればよかったのか、動物愛護の観点でも考えさせられました。
また、非正規で働く友人が周りに多く、その友人たちが出産後、子どもを預ける場所がなく働けなくなるのを目にしていました。当時は、非正規雇用ではなかなか保育園に子どもを預けることが難しい状況だったんです。民主党政権から安倍政権に変わり、「女性が輝く社会へ」と謳っているのに、おかしいなと感じていました。政治にできることがたくさんあるのに、と思っていたタイミングで、自分でやったほうがいいよ、という大臣の一言がしっくりきました。
ー政治家になることに対する迷いはありませんでしたか。
私自身も非正規雇用で放送作家をしていたので、会社を辞めるという感じはありませんでした。正直、迷いはありましたが、次のステップに向けての判断は早かったと思います。もうすぐ政治家人生も12年目に入るので、放送作家より政治家のキャリアのほうが長くなりました。
政治で変えられる手応え:悪質ホストクラブ・デート商法対策
ー塩村議員は女性の支援政策に重点的に取り組まれている中で、2023年には悪質ホストクラブを国会で取り上げ、対策が大きく進みました。関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
新宿・歌舞伎町でのトラブルが多いと感じたことです。ホストクラブで大金を使うために、さまざまな男性から数億円を騙し取った「頂き女子りりちゃん」をはじめ、ホストクラブで働く方が女性に刺されたり、飛び降りが多かったり、ホストクラブ関連の事件が増えていると。
そこで、被害にあった方やその保護者などいろいろな方にお話を伺ったところ、悪質ホストクラブでは10代、20代の女性に数百万円にものぼる借金を背負わせ、その返済のために売春を促していることがわかりました。女性をマインドコントロールして、ホストの売り上げに貢献するために自ら借金をするように仕向けるんです。さらに、借金返済のために女性にAV出演や売春を勧めるんですね。支払い能力のない10代、20代の女性に数百万円、時には一千万円を超える借金を背負わせることができるシステム自体がおかしいと思い、この問題を取り上げるようになりました。
ー悪質ホストクラブ対策に取り組まれるなかで、どのような難しさがありましたか。
一番難しかったのは、適用できる法律がほとんどなかったことです。法律をすり抜ける上手なやり方をとっているので、本人やご家族が警察に相談してもほとんどが門前払いされていました。個人間のトラブル、恋愛感情のもつれとして扱われ、真面目に取り合ってもらえませんでした。
ただ調べて分かったのですが、法律をすり抜けるためのセミナーや指南所があり、業界ぐるみで犯罪的な行為をやっている状態だったんです。ホスト個人の犯罪というより、業界ぐるみ・組織ぐるみの犯罪なので何とかしなくてはいけないと問題提起をしました。
まず、高額な売掛、借金を背負わせることが問題ではないかという点について、警察庁には風営法上は何もできないと言われてしまいました。しかし、売春の斡旋に関しては、厚生労働省が職業安定法の解釈を厳密に適用すると通知を出してくれました。性風俗や売春などの業務に就かせるための仕事の紹介は、職業安定法違反ということが明確になりました。実際に、売掛金の回収のために女性を売春させたホストクラブの従業員が逮捕されるなど、流れが大きく変わりました。
また、好意の感情を不当に利用した契約、いわゆる「デート商法」は、消費者契約法に基づいて契約を取り消すことができるのですが、この取消権がホストクラブでの飲食にも適用できるのか、というのも非常に難しい課題でした。当初は消費者庁、警察、弁護士も消費者契約法は適用できないのではないか、という見解でした。なぜかというと、ホストとその利用客はお互いに彼氏・彼女だと言うのです。そうすると、事業者と消費者の立場ではなくなってしまうので、法律が適用できない、という理屈です。
これも業界ぐるみ、組織ぐるみで行われているのであれば、事業者と消費者の関係になるのではないかと問題提起しました。粘り強く訴えるうちに、消費者庁が「ホストクラブなどにおける不当な勧誘と消費者契約法の適用について」という通知において、ホストクラブでの飲食も消費者契約法で取り消しできると明記してくれました。
ー塩村議員が取り上げたことで、関係省庁が動いたんですね。
ある法律を所管する官庁が出したその法律に関する通知は有権解釈と言われており、裁判所も認めざるを得ない強いものなんです。悪質ホストクラブ対策やデート商法対策は、厚生労働省や消費者庁の方々が真摯に対応してくださったことで進展しました。
官僚の能力を正しく使うのが私たち政治家の役割です。しかしその使い方を誤ると、優秀な人たちはやる気をなくしてしまいますよね。官僚も自分のための利益誘導や出世に走ったり、辞めてしまったりと、国益を損なうことになってしまう。実際に東京大学の卒業生が官僚を目指さなくなっています。優秀な方が官僚を目指さなくなれば、他の国と頭脳でやり合った時に日本が負けていくことにつながり、その損失は計り知れません。私たち政治家は行政監視の役割があるものの、実際には政治家が官僚のやる気を損ねている側面もあるので、政治家の側も反省すべき点があると考えています。
崇高だから後回し、世界的に見ても遅れる日本の人権意識
ー現在、取り組んでいる政策について教えてください。
大きく、2つあります。
一つは無痛分娩の推進です。産む痛みは取り除ける時代になりました。痛みを避けたい人が無痛分娩を選べる環境を日本でも整えるべきです。欧米や韓国と比べると日本の無痛分娩の比率は低く、普及が遅れています。産むときの痛みが嫌で2人目は考えられないという方もいます。また、無痛分娩を選択したくとも費用が高くて手が出せないケースもあります。少子化対策としても、無痛分娩を選択できる環境を整える必要があります。
もう一つは、人権問題です。政治家を続ける中で、日本は人権に対する意識が意外と低いことに気付きました。公的な人権機関は120か国で設置されており、OECD加盟国38か国の中で設置していないのは日本とアメリカ、イスラエルなど7か国のみです。人権機関の設置はこれまでも国連から勧告を受けているものの、実現していません。経済成長が続いた1980年代や90年代の、「人権よりも経済だ」という考えが今も国のトップ層に多く残っています。他国では、選択的夫婦別姓やクォーター制もどんどん取り入れています。日本はこのままではどんどん取り残されていきます。
ー日本ではなぜ人権に関する意識が低いのでしょうか。
教育が大きいのではないでしょうか。日本では公教育のなかで人権を学ぶ機会が十分ではありません。国連の提唱する「包括的性教育」を推進すべきだと考えています。
「包括的性教育」とは、生殖の仕組みや避妊方法など性に関する知識を学ぶだけではなく、人と人とがお互いを尊重する関わり方を持つための学習です。「包括的性教育」のゴールは学習者のウェルビーイングの実現です。お互いの痛みを知り、自他ともに尊重しあう人と人の関わり方を学ぶこと、この根底に人権への尊重があります。
15年以上前に国連が「包括的性教育」を提唱したにもかかわらず、日本政府は何も対応していません。教育が遅れている弊害は大きいですね。
ー教育以外に、どのような問題があるのでしょうか。
根本は教育だと思います。ただ、人権というと「崇高なもの」というイメージが強く、目の前にあるものではないため、後回しになりがちなんだと思います。世界的に見れば、現在はビジネスと人権がダイレクトに結びつく時代です。岸田総理は外務大臣の経験が長く、自民党の総裁選では人権専門の補佐官を置くと公約しましたが、いまだ実現していません。国民が求めるのは今の生活のことであり、政治が目先の国民生活のことをしっかりやるのは当たり前です。しかし国の未来のことをやるのも政治家の役割だと思います。
都議時代、日本のビジネス界のトップリーダー達が受けている研修に参加しました。そこでは、「結果に時間がかかることほどすぐに取り組め」と徹底的に教え込んでいました。経営のトップ達はそれを分かっています。目先のこともやるし、長期的なこともやる。しかし政治はそれができていません。政治献金など目先の話は野党に叩かせてもよいと思います。しかし長期的な議論が今は全くできておらず、政治が機能していないと言わざるを得ません。
ー政治を機能させるためには何が必要なのでしょうか。
与党と野党のバランスが悪いのも一因です。私はおおむね6対4のバランスで与党の政策が強く出る社会が正しいと考えています。ただし今は与党の力が7から8で、偏っている状態ですね。パワーのない野党にも問題があると思います。
ー政治家としてのやりがいやモチベーションはどこにありますか。
目先のことで評価して欲しいとは思いません。例えば人件費を削って、賃金が上がらない社会を作ることを「改革」としてきたことを称賛してきた日本。途上というより後退している。日本にはまだこうした不思議な部分がたくさんあります。こういったものをしっかり捉え、変えていきたいですね。
「日本を真っ当な国にしたい」。この思いが、私の国会議員としてのやりがいにつながっています。