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政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー自由民主党・木原誠二議員に聞く! 「新しい資本主義」の現在地とこれから

自由民主党・木原誠二議員に聞く! 「新しい資本主義」の現在地とこれから

投稿日2024.6.26
最終更新日2024.06.26

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岸田政権は「新しい資本主義」を看板政策として掲げています。「新しい資本主義」は、第一の目標として構造的賃上げと分厚い中間層の形成を目指しており、実際2024年の春闘(春季生活闘争)では5%台の賃上げが実現するなど、「成長と分配の好循環」を目指すための流れが形成されつつあります。本インタビューでは、これまで「新しい資本主義」の立案と実行をリードしてきた自由民主党・木原誠二議員に、「新しい資本主義」の現在地と今後の展望についてお伺いしました。

(文責:株式会社PoliPoli 中井澤卓哉)(取材日:2024年5月29日)

木原誠二議員インタビュー

木原誠二(きはらせいじ)議員
1970年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。大蔵省勤務を経て、2005年初当選
現在5期目。外務大臣政務官や内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官などを歴任。
現在は自由民主党幹事長代理と政調会長特別補佐を兼務する。趣味はテニス。

(1)イギリス留学時代に培われた政治観

木原誠二議員インタビュー

ーイギリス・サッチャー首相との出会いが政治の道に進むきっかけになったと聞きました。イギリスへの留学は政治観を作る上でどのような経験でしたか。

大学卒業後、日本の大蔵省(当時)で働く中で、イギリスの大蔵省に出向する機会を得ました。これは日本人として初めてのことでした。ただイギリス大蔵省にとっても初めての日本人出向者ということもあり、どのように接すればよいのか試行錯誤状態で、結果的に日本にいる時ほどは仕事も忙しくありませんでした。

少し時間があったので、ロンドン大学の博士課程に通うことにしました。その大学の名誉学長がマーガレット=サッチャー元英国首相でした。大学のアレンジで、名誉学長であるサッチャーさんと学生が夕食を共にする機会が設けられることがあり、ある時、サッチャーさんと話をする機会を得ました。

私が日本の大蔵省から来ていることを伝えると、サッチャーさんは「役人はやめなさい」「せっかく公共のために働くなら政治家になりなさい」と言う。印象深い言葉でした。

ただ、私の家族は転勤族で親戚に政治家もいなかったので、政治家になる思いがものすごく強かったわけではありません。出向から日本に帰国したのが2001年。その経験を本(後に『英国大蔵省から見た日本』として2002年に文春新書から出版)にまとめようとイギリス時代を振り返る中で、サッチャーさんの話も頭の中に浮かんできました。政治家になる上でのベースになるような経験だったなと思っています。

ー現在の日本の政策作りの仕組みに対してはどのような問題意識を持っていますか?

政治家と役人の領域の棲み分けが曖昧だと思っています。自分流の表現をすると「役人的政治家」と「政治家的役人」が政策プロセスの中に混在し役割が曖昧になっていることが問題だと感じています。

本来、政治家は国の大きな方針について意思決定をすることが仕事で、役人は意思決定のためにさまざまなシナリオやプランを実効性のある政策として考えることが仕事であるはずです。しかし、意思決定のための根回し能力が秀でていたり、政策の細部ではなくそのアピールが上手かったりする「政治家的役人」や、逆に妙に政策に詳しく、政策の細かいところまで首を突っ込んだりする「役人的政治家」が日本には多いのではないかと感じています。

英国と比べて日本は明確な役割分担ができていないので、政策作りのプロセスが最適化されていないと感じています。日本では政策を実現する上で、官僚が与野党の合意を得るために政治家に対して法案説明をしにくいことが当たり前ですが、本来は、政策の中身作りには直接必要ない作業です。政策作りに直接的に関係ない作業を官僚のみなさんから剥がすような国会改革・統治機構改革が必要でしょう。

私がいた英国では政治家と官僚の棲み分けが明瞭でした。官僚は一つの政策についていくつかの選択肢を用意するなど徹底的に作り込みます。その中からどれを選択するかを決断するのが政治家の役割です。しかもイギリスでは、官僚は、自分の役所の大臣や副大臣以外には接触してはいけないルールになっています。そこまで徹底して棲み分けがなされています。そしてイギリスはコモンローの国で省庁の再編も大掛かりな立法を必要としません。省庁も社会の変化に合わせて柔軟に組織変更がなされます。日本は2000年に省庁再編をしましたが、そこからもうすでに20年以上が経過しています。日本が今抱える課題により効果的に対応するためにも省庁再編があってもよいのではないかと思っています。

(2)「新しい資本主義」は今八合目。価格転嫁をより推進したい。

木原誠二議員インタビュー

ー木原議員は岸田政権の看板政策である「新しい資本主義」を中心となって立ち上げたことでも知られます。改めて「新しい資本主義」を設定した意図を教えてください。

「新しい資本主義」のアイデアの源流は英国大蔵省出向時代に遡ります。私が英国大蔵省で働いた時代のトニー=ブレア政権の下では「第三の道」が推進されていました。「第三の道」はかつてのサッチャー政権で進められた新自由主義政策のほころびに対する処方箋として掲げられた政策パッケージです。かつての労働党が採用していた、手厚い社会保障を特徴とする「大きな政府」の路線でも、サッチャー的な新自由主義でもない新しい路線を示そうとしたのです。

私はその時から日本においてもいずれ「第三の道」が必要になるだろうと感じていました。もともと、私の日本の大蔵省での初めての仕事は「平岩研究会」における規制改革の仕事でしたが、日本は30年間ずっと規制改革・構造改革をやってきたのです。その源流は1996年の日米構造協議にまで遡ります。当時、日本は外国にとって不動産も労働コストも規制の壁も参入障壁も高い国でした。外国からの圧力もあり、コストカット型に舵を切った。もちろんそれによる果実もあった。しかし30年にもわたって愚直にコストカットの努力を続けてきた結果、世界に比べ、物価も賃金も「安い」国になってデフレが続きました。将来に向けた設備投資もコストと認識して怠ってきた面もあります。新自由主義的な構造改革を否定するわけではありませんが、「失われた三十年」が生まれてしまった以上、日本も「第三の道」も必要だろうと。

それが「新しい資本主義」です。岸田総理も明言するように「新しい資本主義」が目指すのはコストカット型の経済から脱却することです。企業の努力によって生まれた内部留保、現預金がしっかりと労働者の賃上げに回り、将来の設備投資に回る。この循環を作ることが政策目標です。

「失われた三十年」の間、ずっと不景気だったわけではありません。小泉政権の時も企業は最高益を出していた。ただその利益は、株主に還元されはしたものの、労働者の賃上げや将来の設備投資には回りませんでした。だから今回こそは賃金をあげる。そのためにはサプライチェーン内での利益分配を公平にして、価格転嫁を促進していくことが必要です。

「新しい資本主義」が新しいのは、生産性をあげてから賃金をあげるというこれまでの発想を、賃金をあげてから生産性をあげるという逆のパスを回し始めたことです。

ー「新しい資本主義」は現在何合目の地点にいると考えていますか。

八合目までは来たと思います。残りの二合分を埋めるためにはサプライチェーン内での利益の適正配分と価格転嫁の促進が不可欠です。徐々に成果が出てきた賃上げと設備投資と合わせ、大企業には経済的な責任を一層果たすように促していく必要があります。

スタートアップ支援もまだ出来ることがあります。大企業やメガバンクがよりスタートアップの輩出・育成にコミットメントするようなエコシステムが形成されるような工夫が必要です。スタートアップに資金を提供するだけではなくて、人的な支援やマーケットの共同開拓など、広い範囲での経営支援をするような動きを作っていきたいです。

30年間定着してきたデフレ経済を転換させるためにはやはり2-3年では厳しい。最低5年は必要だと思います。岸田政権になって大幅な賃上げが2回続きました。来年の春闘はこの流れを継続し定着させていくためにも重要です。併せて金利がマイナス金利からプラス金利の世界に入ってきています。そのこと自体に社会が慣れてくるのにももう少し時間が必要だと思います。

(3)大企業とスタートアップが協働する新しい社会課題解決のあり方を作りたい

木原誠二議員インタビュー

ー最後に読者に向けたメッセージをお願いします。

若い人にはチャレンジをたくさんしてほしいです。起業や副業も自由にできる世界になりつつあります。日本を変える力を持っているのは若いみなさんです。だから若い人を後押しするための経済政策に私は注力していきます。持続的な賃上げのための政策はもちろんのことですが、これまでにない形で社会課題が解決されるような経済のあり方も作っていきます。これからの時代は社会課題を民の力で解決していく時代です。その主体としてインパクトスタートアップやソーシャルスタートアップに期待しています。私自身、ソーシャルスタートアップ協会の設立にも注力しました。大企業は組織が大きく社会課題の解決に対して小回りが効かない側面があります。ただ大企業は大企業で社会に対して果たすべき責任があります。だからこそ大企業がスタートアップを飲み込むのではなく、助け合い協力し合うような仕組みを作り、両者の協働で社会課題が解決されていくような循環が理想ですね。その意味で、スタートアップのみならず企業からNPOや公益法人などの社会のために非営利活動を行う団体への寄付行為をより活発にさせるための仕組みを作ることも重要だと考えています。これまでの資本主義の論理の中では放置されてきたような社会課題を民間の力で解決していくための知恵をこれからも絞っていきたいと思います。

国際会議に出ていてよく外国から来た方に「日本は変わるのか」と聞かれます。そこで私は「若い人を見て下さい。働き方も意識も変わっていますよ。」「だから、日本はもう変わっています。」と答えています。「失われた三十年」を抜け出しつつある日本に対して、海外からの眼差しも変わってきました。将来を信じ、世界の舞台でチャレンジする若い人を応援する政治をしていきます。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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