法の下の平等とは、国家は国民を差別的に扱ってはいけないというルールです。
今回の記事では、以下の3点について解説していきます。
- 法の下の平等の概要
- 絶対的・相対的平等の違い
- 代表的な判例
本記事がお役に立てば幸いです。
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1、法の下の平等とは
「法の下の平等」とは憲法第14条に基づいた、「国家はどんな国民に対しても、等しく扱う必要がある」という人権に関する基本的な原則です。
「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」
引用:日本国憲法14条1項
この章では、以下の2つの意味に関して見ていきましょう。
- 法の下
- 平等
(1)法の下の平等においての「法の下」の意味
「法の下」とは、法律の及ぶ範囲を意味します。
具体的な法律の範囲としては、以下の2つの視点があります。
- 法適用
- 法内容
「法適用」の平等とは、「法の執行・適用を行う行政や司法は等しく国民を扱うべし」という行政権・司法権への要請を意味します。
「法内容」の平等とは、「内容も平等原則にしたがうべし」という立法への要請を指します。
上記の点を踏まえ、憲法14条1項に関する学説には、主に2つあります。
①立法者拘束説
「立法者拘束説」とは、「法適用」と「法内容」の両方が当てはまる、という主張です。
つまり「法の下」という縛りは、立法・行政・司法といった全てに適用されるという考え方です。
どれだけ正しく法を行使しても、法の内容がすでに差別的なものであれば、「平等の理念」が機能しているとは言えません。
判例・通説はこの説に賛同しています。
②立法者非拘束説
「立法者非拘束説」とは、「法適用」のみが当てはまる、という主張です。
つまり、法を等しく適用さえすればよいとする考え方になります。
そのため、三権のうち行政と司法のみが縛られると解釈されています。
(2)法の下の平等においての「平等」の意味
「平等」の意味には、以下の2種類があります。
- 機会の平等
- 結果の平等
「機会の平等」とは、どの人にも同等の機会を与えることを指します。
その機会を活かすかは、個人の努力次第というものです。
「結果の平等」とは、どの人にも同等に財産を分配することを指します。
いわゆる社会主義に近い考え方です。
通説では、法の下の平等は、「機会の平等」に該当するとされています。
2、絶対的平等と相対的平等の違い
平等には、以下の2つの考え方も存在します。
- 絶対的平等
- 相対的平等
法の下の平等では「相対的平等」を基礎としています。
ここからは、2つの平等についてみていきましょう。
(1)絶対的平等
「絶対的平等」とは、各個人の持つ違いは考慮せず、一様に扱うという、考え方です。
絶対的平等に則れば、以下の2つについて認められなくなります。
- 女性に対する産後休暇
- 未成年に対する少年法の適用
他と違う扱いは、不平等行為にあたるのです。
(2)相対的平等
「相対的平等」とは、各個人の年齢や能力など、さまざまな違いを考慮した上で平等に扱うという、考え方です。
たとえば、以下の3つなどは、相対的平等の見解に基づき、実施されています。
- 女性・高齢者に対する労働条件の保護
- 所得税の累進課税
- 少年犯罪への対処
大人や子ども、男性や女性で異なる扱いをしても、社会通念上合理的な理由があれば、不平等行為にはなりません。
3、法の下の平等に関する4つの判例紹介
最後に、法の下の平等に関する判例である以下の4つについて紹介します。
- 尊属殺重罰事件
- 衆議員定数の不均衡訴訟
- 非嫡出子に対する相続分差別訴訟
- 婚外子による国籍訴訟
参考:裁判所HP
(1)尊属殺重罰事件(最大判昭48.4.4)
尊属殺重罰事件とは、尊属殺人(身内の殺害)について、普通の殺人より重い罪を課す、当時の刑法200条について争われた事例です。
この事件の概要は、実父によって性的虐待を受けていた娘が、結婚させないための監禁をきっかけに、その父親を殺害したことで、重罪を課された、という内容です。
争点となったのは、14条1項に対する以下2つの合憲性についてです。
- 尊属殺人罪を設け、刑を加重すること
- 尊属殺が死刑および無期懲役刑のみということ
当時の刑法200条では、直系尊属を殺害した場合、死刑または無期懲役という重い罰が規定されていました。
最高裁判所では「尊属への報恩の情を保護する」という目的は、合理的であるとしました。
一方で、その刑罰の重さは、目的達成の手段として著しく偏っているとし、違憲判決を下したのです。
これにより、刑法200条は1995年に削除されました。
(2)衆議院議員定数の不均衡訴訟(最大判昭51.4.14)
衆議院議員定数の不均衡訴訟は、衆議院議員選挙における一票の価値が、最大5倍まで格差が生じたことを理由に、選挙の無効を請求した事例です。
争点となったのは「投票価値に不平等がある場合、その選挙は有効なのか」という点です。
最高裁判所は、「14条1項は選挙人資格だけでなく、投票の価値の平等も要求している」として、最大5対1の格差について、違憲状態であることを認めました。
しかし、選挙の違法性については、判決主文の宣言にとどまり、選挙無効を訴えは棄却されました。
選挙を無効にすれば、国会の機能が停止し、国に混乱をまねく恐れがあったためです。
(3)非嫡出子に対する相続分差別訴訟(最大判平7.7.5)
非嫡出子による相続分差別訴訟は、被相続人の遺産分割に関する、非嫡出子への相続について争われた事例です。
争点となったのは、「非嫡出子の相続について規定していた、民法900条4号ただし書きの合憲性」についてです。
民法900条4号ただし書きでは、「非嫡出子の相続分は嫡出子の1/2とする」という内容が定められていました。
最高裁判所では、民法900条4号ただし書きは、以下の2つを目指したものであり、合理的な根拠があると肯定しました。
- 法律婚の尊重
- 非嫡出子に対する保護の調整
これにより、合理的理由のない差別とはいえないとして、原告の訴えを退けたのです。
しかしその後、2013年に、個人の尊重という観点から、以下の2つとされました。
- 自己によって選択できない事柄を理由に、子が不利益を被ることは許されない
- 子も個人として尊重し、権利を保障すべき
そして、その結果「民法900条4号ただし書きは違憲である」との判決が下されました。
この判決を受け、民法も改正され、現在では民法900条4号ただし書きは、一部削除されています。
(4)婚外子による国籍訴訟(最大判平20.6.4)
婚外子による国籍訴訟は、婚姻していない両親から生まれた子の国籍取得について争われた事例です。
当時の国籍法3条1項では、父母の婚姻によって嫡出子となった場合に限り、日本国籍の取得を認めていました。
争点となったのは、以下の2つの点です。
- 日本国籍を認めない当時の国籍法の合憲性
- 婚姻要件を除いた要件を満たした場合の、子による日本国籍取得の可能性
最高裁判所は、「立法制定当時(1984年)は合理性があったが、その後の社会環境の変化によって、当該規定は合理性を欠いた要件となっていた」として、当時の国籍法について違憲判決を下しました。
この判決を受けて、国籍法3条1項は改正されました。
また、未成年者についても、生後認知のみで、国籍取得が可能となったのです。
法の下の平等に関するQ&A
Q1.法の下の平等とは?
法の下の平等とは、すべての国民は法の下に平等であることが規定されていることです。
Q2.法の下の平等は憲法何条?
法の下の平等は、日本国憲法においては14条1項に規定されています。
Q3.法の下の平等の判例は?
かつて、他人を殺害する場合と目上の親族を殺害する尊属殺人では、刑の重さが異なっていました。しかし、このように尊属殺人について重く処罰される法律は、法の下の平等に違反するとして、違憲判決が下されました。
まとめ
今回は、「法の下の平等」について解説しました。
日本国憲法14条「法の下の平等」では、国家は国民に対し理不尽な差別をしてはならないとし、平等原則の徹底化に努めています。
社会的な合理性を踏まえ、「平等」という理念をうまく使い分けていくことが、平和な国家には必要であるといえるでしょう。