内閣提出法案とは、内閣が国会に提出する法案のことで、略して「閣法」とも呼ばれます。
議員が作成する議員提出法案は、「議員立法」と呼ばれます。
日本では一般的に議員立法は少なく、閣法が成立しやすい、と言われています。しかしなぜそうなっているのでしょう?そこで今回は
- 内閣提出法案とはどのようなものか
- なぜ日本では閣法が多く成立するのか
を詳しく説明していきます。本記事がお役に立てば幸いです。
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1、内閣提出法案とは
内閣提出法案とは、各省庁などで立案され閣議にて決定されてから、内閣総理大臣の名で提出される法案のことです。
閣法とも呼ばれています。
内閣による閣議によって決定されるので内閣提出法案と言いますが、基本的には、各省庁の官僚が法律の原案を作成します。
2、内閣提出法案が国会に提出されるまでのプロセス
内閣提出法案が国会に提出されるまでに、4つのステップを経ることになります。
以下で順に説明していきます。
(1)第一次の原案作成
まず、所管の各省庁において、原案が作成されます。
どういった時に原案が作成されるかというと、行政の遂行上必要になった時です。
所管の省庁が設定した施策目標を実現するために作られます。
(施策とは、政策の下部に位置付けられるもので、例えば、「生き生きとしたまちづくり」といった方向性を示すものが政策で、施策とは「観光の促進」など、政策を達成するためのものになります)
この第一次案を基に、関係する省庁との意見調整等が行われます。
更に、審議会に対する諮問や、公聴会における利害関係者や専門家の意見聴取等を必要とする場合には、これらの手続を済ませます。
そして、法律案提出の見通しがつくと、その主管省庁は、法文化の作業を行い、法律案の原案が出来上がります。
(2)内閣法制局で審査
全ての内閣提出法案は、内閣法制局によって審査が行われます。
内閣法制局における審査は、主管省庁で立案した原案に対して
- 憲法や他の現行の法制との関係、立法内容の法的妥当性
- 立案の意図が、法文の上に正確に表現されているか
- 条文の表現及び配列等の構成は適当であるか
- 用字、用語について誤りはないか
といったような点について、法律的、立法技術的にあらゆる角度から検討します。
この審査に基づいて、閣議決定が行われます。
(3)閣議決定
内閣法制局での審査を通過すると、閣議が開かれます。
そして、法律案について異議なく閣議決定が行われると、ようやく内閣提出法案が完成します。
閣議決定の後、内閣総理大臣から国会に提出されます。
閣議決定についてより詳しく知りたい方は以下の関連記事をご覧下さい。
(4)国会へ
提出された法案は、すぐに国会で審議されるのではなく、一度委員会を通します。
内閣提出の法律案が衆議院又は参議院に提出されると、原則として、その法律案の提出を受けた議院の議長は、これを適当な委員会に付託します。
委員会での質疑・討論によって審議が通過すると、本会議に移行します。
衆議院・参議院の可決を経て、法律になります。
このように、法律の案を作成するだけでも、多くの審査・プロセスを経ていることが分かります。
参考:内閣法制局
更に詳しく法律がどのようにして作られるのかについて知りたい方は以下の関連記事も併せてご覧になられると良いかもしれません。
3、内閣提出法案と議員立法との違い
議員立法とは、議員によって法律案が発議され、成立した法律です。
「議員立法」という表現は、成立の有無に関わらず
- 議員が提出した法律案の全体
- 法律案の提出
などの議員による立法活動全般を指して用いられる場合もあります。
本来は、国民から直接選ばれた議員によって、国や地域のルールが決められるべきです。
実際に近年では、議員立法の重要性を鑑み、活性化させようという取組みも増えてきています。
しかし、従来から日本では内閣提出法案による立法が多く、法律として成立するものは概ね8割が内閣提出法案だと言われています。
これが、日本の政治が「官僚主導」だと言われてきた理由です。
官僚とは?政治家との違いや仕事内容・年収等について簡単解説
4、内閣提出法案が議員立法より成立しやすい理由
では、そもそもなぜ、議員立法よりも、内閣提出法案の方が多く法律として成立するのでしょうか。
内閣提出法案が国会で審議されると、70%〜90%の割合で成立しますが、議員提出法案では20%程度しか成立しません。
これは内閣提出法案が
- 与党の「事前審査」を通じて提出されること
- 官僚の政策に関する専門性が高いこと
が主な理由と言われています。
(1)事前審査
事前審査とは、法案について国会で提出されるまでに、与党が事前に法律案の中身を確認しておくことです。
ここで国会の大多数の政党による審査が行われるため、その後の国会による採決でもスムーズに可決されることが多くなるのです。
しかし、この「事前審査」が国会審議の形骸化につながっているとの批判もあります。
(2)官僚の専門性の高さ
内閣提出法案は、行政上の政策・施策において必要になる法案を作成するために、高度な専門的知識を有している官僚が作成しています。
さらに、他の省庁との調整や、内閣法制局の審査も経ています。
そのため、国会に提出されるまでに、専門的な知見を有する機関によって、問題点がないか審議し尽くされます。こうしたことから、内閣提出法案は国会で成立しやすいのです。
内閣提出法案に関してのQ&A
Q1.内閣提出法案とは?
内閣提出法案とは、各省庁などで立案され閣議にて決定されてから、内閣総理大臣の名で提出される法案のことです。
Q2.内閣提出法案と議員立法の違いは?
内閣提出法案は、専門的な知識を有する官僚が作成した行政上の政策・施策において必要になる法案です。
議員立法は、議員によって法律案が発議され、成立した法律です。
Q3.内閣提出法案が法律として成立しやすい理由は?
理由は以下の2つです。
- 与党の「事前審査」を通じて提出されること
- 官僚の政策に関する専門性が高いこと
まとめ
今回の記事では、内閣提出法案と議員立法との違いを説明しました。
現在は内閣提出法案による立法が多くを占めています。
政治主導か官僚主導か、といった議論もありますが、専門性の高い内閣提出法案と、民意を反映する議員立法はどちらも大切なものなのです。
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